若手の成長で感じる“脱・木村依存”=世界戦で自信深めた宮下、長岡ら

田中夕子

ベンチから見守る大一番

木村は世界選手権がかかった大一番をベンチから見つめ、コートで戦う若手を盛りたてた 【坂本清】

 タイムアウトを終え、コートへ向かう若い選手たち、1人ひとりの背を、ポン、と軽くたたき、声をかけて送り出す。
 この試合で勝てば世界選手権出場が決まる、大一番となった試合で、木村沙織はベンチにいた。
 
 絶対に負けられない試合。格下とはいえ、プレッシャーのかかる状況であることをふまえ、スタメン出場はしたが、第1セットを15−8と大量リードした場面で、木村は石井優希と交代した。

 先週末はワールドグランプリの決勝ラウンドで世界トップ5との5連戦を終えたばかりで、コンディション面も考慮した途中交代ではある。ピンチサーバーとして最後の最後に再びコートへ戻ったが、どんな理由があるにせよ、これまでならばこれほど長く木村がコートを離れるケースはほとんどなかった。

「これまでとは異なる変化がある」

 ロンドン五輪までのチームならば、どんな状況でも木村は常に試合に出続け、攻守の要としてフル回転の働きをしてきた。勝つも負けるも木村次第。エースとして、これ以上ない信頼の表れではあるが、裏を返せばそれだけ木村依存が高いということでもある。

 木村が今も、チームにとって大きな柱であることに代わりはない。ただ今は、「少しずつではあるがこれまでとは異なる変化がある」と、2010年の世界選手権から木村と対角を組む江畑幸子は言う。
「サオさんはいつもチームを引っ張ってくれる存在だけど、サオさんがコートにいないとチームが弱くなっちゃう、というのは良くない。オーストラリア戦ではセンター線を多く使えたし、自分も上がってきたトスは全部決めるつもりでいました。少しずつですけど、サオさんだけに頼るチームではなくなってきている実感はあります」

若手主体の布陣で光った長岡と宮下のコンビ

 オーストラリア戦の翌日、全勝対決となった最終日のタイ戦はスタートから木村、江畑、新鍋理沙を外し、レフトに石井と近江あかり、ライトには長岡望悠という若手主体の布陣で臨んだ。

 外から見ていた木村が「試合を重ねるごとに成長した」という若い選手の中で、特に光ったのが、長岡とセッターの宮下遥とのコンビだ。

 同部屋だった2人は、毎晩遅くまで試合のビデオを見ながら、反省や課題を話し合ってきた。もっとトスを速めた方がいいんじゃないか、助走のタイミングはこれでいいのか、突くようなトスがいいのか、ふわっとしたトスがいいのか。
 同じ攻撃型の選手で、高いトスも打ち切れる江畑と異なり、長岡はスピードを生かした攻撃を得意とする。
「トスを速くしてもらった分、助走の始めを早くして、遥の手に(ボールが)入る時には、自分もジャンプして、速いタイミングで打つようにしました」

 昨年のアジアカップや、ワールドグランプリでは「怖い、と逃げてしまうときもあった」という相手のブロックに対しても、時折フェイントも織り交ぜるなど「勝負をシンプルに考えられるようになった」と長岡は言う。
「(攻撃に)入るのが遅れて、大きく振りかぶってしまうと速いトスには間に合わない。そういうときに、遥が間を作ってくれるんです。その一瞬があるだけでも、全然違いました。まだまだですけど、(タイ戦は)ちょっとだけ、自分の自信にもなりました」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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