足元を見つめなおした日本代表=グアテマラ戦をどう評価すべきか

宇都宮徹壱

本田の途中出場でギアが入った日本

日本の攻撃にギアを入れた本田(左)は、出場から5分であっさりと先制点を奪った 【Getty Images】

 前半の45分に関しては、あまり特筆すべきことはなかった。中盤でのプレスが緩いグアテマラに対し、前半の日本は面白いようにパスを回しながら相手陣内でゲームを進めるものの、なかなかフィニッシュが決まらない。大迫が4本、清武が3本、いずれも思い切りの良いシュートを放ったが、いずれもGKの正面か枠の外へ飛んでいった。

 肝心の守備についてはどうか。「安定していた」――というよりも、ほとんど攻め込まれる時間帯がないから、ピンチらしいピンチはほとんどない(むしろセットプレーでの森重の攻撃参加が目立っていた)。相手の攻撃を封じていたのは、日本が得意とするポゼッションで上回っていたこと、そして前線からの的確なプレッシングが相手の攻撃を未然に封じていた。結局のところ、いくつもの決定機を作ってはみたものの、一度として相手のゴールネットを揺さぶることなく、前半は0−0で終了する。

 ハーフタイムが終わり、ロッカールームから日本代表の選手たちがピッチに現れたとき、スタンドが一斉に「わあっ!」という歓声に包まれた。イレブンの中に、背番号4と11の姿があったからだ。清武と大迫に代えて、本田と柿谷を投入。とりわけ柿谷に関しては、長居を本拠とするセレッソ大阪サポーターにとって、まさに凱旋そのものに映ったことだろう。ザッケローニ監督によれば、後半の交代カードの切り方については、試合前から決めていたという。結果としてこのチョイスは当たり、日本の攻撃にギアが入った。

 後半5分、左サイドの長友が縦に突破してクロスを供給。ボールはGKの頭上を超え、ほとんどノープレッシャーで本田が頭で決めて日本が先制する。前半の45分はいったい何だったのかと思えるくらい、実にあっけないゴールであった。追加点は後半24分。ショートコーナーを起点として、長谷部とのワンツーから香川がボックスに侵入する。相手をしっかり引きつけてからのラストパスに、ニアに走りこんできたのは工藤(後半17分に岡崎と交代)。DFとGKに挟まれながらも、工藤は左足で泥臭く決めてみせた。そして31分、ペナルティーエリア前でFKのチャンスを得た日本は、遠藤がキック。弾道は壁に入っていた選手の背中に当たり、コースが変わってそのままゴールへと吸い込まれていった。しかし決めた当人は「ラッキーなゴールでしたね」と、やや渋い顔。

 3点目が決まる直前、日本ベンチは香川を下げて今野泰幸をピッチに送り出し、システムは3−4−3となる。右から本田、柿谷、工藤と並んだ3トップは、それぞれが持ち味を出しながらゴールを目指すが、さすがに4点目はならず。それでも3バックの中央に入った森重も含め、東アジア組がしっかり順応できていたことについては頼もしさが感じられた。結局、3−0のまま試合終了。無失点での勝利は6月11日のイラク戦(1−0)以来、実に8試合ぶりのことである。

成果は「楽しみながらサッカーをやっていた」こと

「勝って当たり前の試合なので。大事なのはこういうときでもしっかりと結果を残すという意識は持っていました」

「相手に失礼にならないように言わないといけないと思うけど」と前置きした上で、試合後に本田はこう語った。確かにその通りだと思う。相手はFIFAランキング93位でオール国内組。どう考えても、W杯本番でこのレベルのチームと対戦することはない。ゆえに「ディフェンスの再構築」や「序列の変化」といったテーマも、ほとんど意味をなさなかったと言ってもよいだろう。では、このマッチメークは失敗だったのだろうか。ザッケローニ監督は、このグアテマラ戦の成果について、このように語っている。

「今日の試合で気に入ったのはチームスピリッツの部分。(選手たちは)楽しみながらサッカーをやっていた」

 攻守のバランスやチームとしてのプレッシング、そして縦横の選手の距離感。いずれも一定の評価をしつつも、指揮官が何よりもうれしく感じていたのが「楽しみながらサッカーをやっていた」ことであったのは非常に興味深い。そういえば会見の直後、ミックスゾーンの会場をのぞいてみたが、フル出場していた吉田が笑顔でメディア対応している姿が印象的であった。コンフェデ杯のイタリア戦、そして先のウルグアイ戦で失点につながる失敗を繰り返し、所属するサウサンプトンでもレギュラーの座を失った吉田だが、ほぼノーミスの無失点で90分間プレーできたことは、少なからず自信となっただろう。たとえ、相手がグアテマラであっても、である。おそらく他の選手にとっても、同様だったのではないか。

 自分たちは本来、どんなサッカーを目指していたのか。あるいはもっと根源的な問題として、どうすればサッカーを楽しむことができるのか。自分たちの足元を見つめなおし、負のサイクルを断ち切る契機としては、むしろグアテマラは理想的な対戦相手だったのかもしれない。確かに評価が難しい試合ではあったが、さりとて必要以上にネガティブにとらえる必要もない。この試合の成否は、次のガーナ戦で明らかになることだろう。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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