渋く長く――「松坂世代」木佐貫洋の奮闘=新天地・北海道で愛される33歳の実直さ

ベースボール・タイムズ

今季、北海道日本ハムに移籍した木佐貫。キャリアハイに近い勝ち星を挙げ、松坂世代の中で、奮闘が目立つ選手のうちの一人だ 【写真は共同】

 かつて、その名を球界全体に轟かせた選手たちがいる。藤川球児(カブス)、杉内俊哉(巨人)、館山昌平(ヤクルト)らが名を連ねる『松坂世代』の面々だ。最強世代の名の下に、球界をリードしてきた彼らも今年で33歳。気づけばベテランの域に達するようになった。長年の戦いが影響しての故障、年齢からくる衰えなど理由はいろいろと考えられるが、今年は“当”の松坂大輔をはじめ、一様に本調子ではない。

 しかし、そんな同学年選手を尻目に、チームの勝ち頭として奮闘する一人の松坂世代がいる。鹿児島県出身、プロ11年目の北海道日本ハム・木佐貫洋だ。開幕前の電撃トレードで糸井嘉男(オリックス)らとのトレードで日本ハムに加入し、8月31日現在8勝をマーク。2桁勝利まであと2つと、キャリアハイに近いペースで勝ち星を積み重ねている。

早くに台頭も……木佐貫の苦労

『早熟』『晩成』――競馬の世界などでよく使われる言葉だが、いまでは他のスポーツでもしばしば用いられるようになった。
 松坂世代の面々は、いまなお活躍を続ける選手が多いものの、どちらかというと早熟傾向にあると言えるだろう。木佐貫も、早くにその才能を示した選手の一人だった。

 プロ1年目から、巨人のローテーションの一角を任され、10勝7敗という成績をマーク。奪った三振180個は、あと一歩で奪三振王にも手が届く数だった。150キロを超える直球に、落差鋭いフォークボールが武器。不振もあって、そのピッチングスタイルから一時的にクローザーを任されることもあったが、3年目以降は故障に泣いた。2007年、12勝を挙げるも、翌年は6勝止まりで、09年は1軍登板1試合のみ。同年、トレードでオリックスに移籍したときには正直、キャリアの終焉(しゅうえん)の予感も漂うほどだった。

 プロとしてのキャリアを歩み始めた巨人から関西のオリックスへと移籍し、さらに今季、北海道へと移籍。出身は前述のとおり九州だ。度重なる“地方”をまたぐ移動に、前述の電撃トレード。集中力を保つのも難しいだろう。
 しかし、厳しい環境の中で迎えた今季、そこにはまるで生え抜き選手かのようにチームに馴染んでいる木佐貫の姿があった。

「北海道はとてもやりやすい」

 チームメート、ファンからすぐに受け入れられた一番の要因は彼の“実直さ”にある。

 木佐貫の性格はいたって真面目であり、研究熱心だ。登板時に気づいたことがあればベンチに戻ってすぐにメモを取る。その姿は今や木佐貫登板時の名物だ。また、ファンサービスにも意欲的で、カバンの中には「いつも入っています」と、自らがサインしたカードを忍ばせ、ファンに求められればすぐに渡せるようにしている。今年はすでに2000枚近くを配ったとのことだ。
 そんな木佐貫を、北海道のファンたちもすぐに受け入れていった。野球のほかに『鉄道マニア』の一面があると知られるや、地元・北海道のテレビや新聞で次々と『乗り鉄・木佐貫』の特集が組まれるほど。

「北海道はとてもやりやすいです。ファンの人達もとてもやさしいので投げやすいですね」

 好調の要因を聞くと、「特にいつもと変わらず、低めに丁寧に投げる事を意識しているだけです」と語った木佐貫だが、自らを受け入れてくれた北海道のファンの優しさもまた、マウンドに登る彼の力になっているようだ。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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