松坂が再びカーテンコールを浴びるには……あと1カ月、残された時間は多くはない
またもニューヨーカーを感心させるには至らず
メジャー復帰後2連敗の松坂、再び脚光を浴びるには何が必要か 【Getty Images】
まだ1対1の同点だった5回表のこと――。ニューヨークの地元ラジオ局WFANのアナウンサーのそんなコメントが、米国時間8月28日のフィリーズ戦での松坂大輔を分かり易く表していたのかもしれない。この日は実際に様々な意味で、“ビンテージ(年代物=典型的な)・ダイスケ”と呼べる投球内容だった。
すべてのイニングで得点圏に走者を許しながら、可能な限り要所を締めて試合を壊さなかったことは評価できる。ストレートは最速92マイルを記録するなど、復帰第1戦のタイガース戦(23日)と比べて向上したと思える部分もあった。力を入れて投げたときの真っ直ぐは球威があり、決定打は許さなかった原因はそこだろう。
ただ、制球のばらつきも顕著で、最終的には4回1/3で6安打、4四球、2死球。降板後にリリーフが打たれて自責点は4となり、チームも2対6で敗れ、“質の良い”と呼び得る結果ではなくなってしまった。
「(真っ直ぐの)走り自体は悪くなかったと思いますけど、久しぶりにボールをコントロールできなかったですね。長いイニングを投げることができず、早々とブルペンを使う形になって申し訳ないです」
さらに言えば、投球間隔の長さも変わらぬままで、おかげで冗長な映画のように間延びした試合展開になってしまった感は否めない。総合的に見て、メッツでの2度目の登板でも、松坂は残念ながらニューヨーカーを感心させるには至らなかったと言うのが現実だろう。
もどかしい内容……必要なのはバランスと安定感
「しっかりとしたピッチングをしていけば来年に繋がるとは思いますけど、先を見る余裕は僕にはない。目の前の1試合を大事に投げて行くだけです」
復帰戦後にはそう語っていた松坂だが、もちろんメジャー帰還のみが目標だったはずがない。ここで好投しておけば、再びFAになる今オフにメッツからより良い条件で再契約の話が出る可能性もある。体調さえ万全なら、経験豊富な右腕に目を付けるチームは他にもあるはずだ。
メッツにはすでにプレーオフの望みはないとはいえ、注目度も高いニューヨークでの登板は大事な“ブロードウェイのオーディション”。ここでの先発機会は、松坂が近未来に再び大役を得るための重要な試金石でもある。
しかし……23日の初登板ではいきなりメジャー最高のチーム打率を誇るタイガースと対戦し、6安打、5失点で敗戦投手になった。続く今夜のフィリーズ戦でも敗れ、これで2連敗と厳しい再出発。特にもどかしいのは、この2戦の間で、欠如している部分がまるで正反対だったことだ。
「速球のスピード、球威はやはり以前とは比較できないものだった。ただ、変化球は相変わらず良いね。特にカーブの切れ味は鋭かったから、コースに決まったら打つのは難しいんじゃないかな」
23日のタイガース戦ではトリイ・ハンター、ミゲール・カブレラに本塁打を許したが、試合後にハンターも松坂の変化球の質は認めていた。実際に2回2死以降はカーブを上手く使って10打者を完璧に封じていたのだから、ハンターの言葉はリップサービスばかりではなかったはずである。
「持ち球自体は十分良い。あとは制球さえ良ければ打者を討ち取れるんだ」
テリー・コリンズ監督もそう語っていた通り、28日のフィリーズ戦では逆に球威は十分だったように見えた。しかし、今度は制球難。前の試合では1のみだった四死球は6に増え、長いイニングを投げるには至らなかった。
2戦とも一方的にやられているわけではなく、能力の片鱗は随所に見せている。低めに決まる90〜92マイルの真っ直ぐは勢いがあるだけに、一部で言われているように“変化球投手に完全に転身する”べきだとも思わない。それよりも必要なのは、やはりバランスと安定感なのだろう。