コンピューター制御のクルマは諸刃の剣=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第11回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

ヨハンソンが語るハイテクマシンの落とし穴

自らがデザインした時計のプロモーションのために来日したステファン・ヨハンソン 【AUTOSPORTweb】

 コンピューター制御満載のクルマでレースを始めたドライバーと、その前の時代を経験したドライバーとでは、そもそもレースに対する考え、クルマに対するアプローチは異質であるということがよく分かった。先日、1980〜90年代にF1を戦ったスウェーデン人ドライバー、ステファン・ヨハンソン(マクラーレンやフェラーリに在籍し、優勝はないものの、長年にわたって活躍した。ホンダF1第2期最初のドライバーもこの人である)とこの問題について話した。そして、コンピューター制御のクルマにも落とし穴があることが分かった。

 ヨハンソンはこう切り出した。

「われわれの時代には、コーナーに飛び込むときにクルマが予想を超えた動きをする可能性を常に考えていた。ブレーキングでクルマのリアが跳ねるかもしれないとか、フロントが取られるかもしれないとか、コーナーの立ち上がりでリアがグリップを失うかもしれないとかね」

タイムを大きく左右する“コーナリング”

 今も昔もラップタイムを上げるのはコーナリングの妙である。直線スピードはエンジンの出力と空気抵抗の大小によるものなので、これは走る前から勝負が決まっており、ドライバーはつべこべ言わずにアクセルを踏むだけだ。しかし、例え直線スピードが遅いクルマであっても、コーナリングスピードを上げることでいくらかはラップタイムを縮めることができる。ドライバーはそのことをよく知っており、ゆえにコーナリングを最も重要な課題としてそれに挑むのだ(もちろん、コーナリングスピードはダウンフォース量に大きく左右される部分でもある)。そして、コーナリングのうまいドライバーは才能のあるドライバーとして評価される。レーシングドライバーは誰もが自分が一番うまいと考えているから、コーナリングには力が入る。

 しかし、現在はどうだろう。ヨハンソンはこう付け加える。

「現代のレーシングカーはコンピューター制御で誰でも乗ることができる。コーナーに突っ込みすぎてもABS(アンチロック・ブレーキシステム)が働いてくれるし、出口でアクセルを踏みすぎてもトラクションコントロール(発進・加速時のタイヤの空転の防止)が働いて理想的なグリップを与えてくれる。何から何までコンピューター制御だ。レースを始めた時からこうした電子デバイスの付いたクルマに乗っていれば、それが普通であり、クルマのコントロールはそうしたデバイスが助けてくれるものとして行うことになる。ニキ・ラウダが『今のF1は猿でも運転できる』と言った意味が分かるだろう?」

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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