甲子園で話題となったルール問題を考える=周知徹底と運営の改善を

松倉雄太

サイン伝達、カット打法…大会後半に注目浴びたルール

準決勝で敗れ、涙をこらえる花巻東ナイン。ルール問題でも話題に。それぞれの努力が無駄にならず、公平な試合が行われるためにも、この問題についてあらためて考えていきたい 【写真は共同】

 前橋育英が初出場初優勝を飾った今年の選手権。群馬三冠(秋・春・夏)を獲るなど、昨秋以降、関東大会で対戦した浦和学院以外には公式戦負けなしで頂点に立った。
 その中心にいたのがエースの高橋光成(2年)。全6試合中5試合で完投し、春の選抜大会での浦和学院・小島和哉(2年)に続いて2年生での優勝投手となった。

 高橋光成躍進の原動力について大会中、捕手の小川駿輝(3年)がこう話していたことがある。
「最初の2試合を1対0で勝てたことは大きかったと思います」
 そう、躍進の原動力の一端には、ライバルの存在がある。1回戦では高橋由弥(岩国商)と投げ合い、9者連続三振を奪うなど相手を圧倒。小川の三塁打による1点を守り切った。
 2回戦の相手は山下敦大(樟南)。この試合では15個のゴロアウトを築くなど、打たせて取るピッチングで得点を与えず。チームは相手の失策によって1点を挙げ、高橋光がそれを守り抜いた。
 1対0のしびれるような投手戦を2試合連続で経験し、「成長を感じる」と捕手の小川は話してくれた。自他共に認める『モジモジした』性格だそうだが、試合を重ねる毎に、その背中が大きく、逞しくなっていったのを女房役は実感しているようだった。

 さて、今大会ではいわゆる「走者によるサインの伝達」や「カット打法」などのルールも話題となってしまった。さらに線審がタイムをかけているにも関わらず、球審と塁審がそれに気づけないままプレーが続行し、結果としてプレーがやり直しになるといった、不手際も見られた。人間がやっている以上、仕方がないということは分かるが、当事者にとってはやりきれない場面も目立ってきている。そこで、根本的に何が大事なのかを少し考えてみたい。

選手へのルール徹底に大事なこと

 走者によるサインの伝達は、今大会であるチームの選手が注意された。今春の選抜大会でも、相手捕手が再三指摘している場面が見られた。甲子園に出る強豪校の中では毎年のようにサイン伝達を疑われるチームがあるが、果たしてチームとしての決まりごととしてやっているチームばかりなのだろうか。今大会でもチームとしてやっているというよりも、無意識のうちにサインを伝えているのではないかという選手もいた。

 二塁走者の位置から打席を見れば、相手捕手のサインは見えてしまう。ついつい打者に教えてしまうこともあるかもしれない。小さいころからのそんな意識で野球を続けるうちに、サイン伝達という大きな要素になるのではないだろうか。

 結局は野球を始める時に、指導者がそういった行為をはっきりと『ダメなことだ』と言ってあげないといけないのではないだろうか。プロだとか、高校だとかというカテゴリーを抜きにして、野球の底辺から全体で考えていけるようになれば、野球界も一歩前進したと言えるのかもしれない。

サイン伝達が話題となったが……

 それから、走者によるサイン伝達が禁止されていながら、捕手など守備側が攻撃側ベンチのサインを見て戦略を練ることについては全く禁止されていないというのも忘れてはいけない。

 一方で、相手のサインばかりに気を取られていると、野球本筋の部分の思考が薄れるし、その逆もある。実は審判も同じだ。基本的に4人の審判団は、投球の際には投手のモーションやストライクゾーンなどを注視するため、走者の動きには希薄になってしまう。投手のボークに比べてサイン伝達の注意が少ないのもそれが要因の一つになっている。
 球審も傍目には見えているように思えるが、そこまで走者を見るだけの余裕がないというのが実情だ。あからさまに疑わしい動きがない限り、気付かない事もあるだろう。

 「結局、しっかりと見えるとすれば、本部・関係者席で見ている控え審判しかない」と話すアマチュア野球の審判の声もあるように、審判全体でフォローする事もあってもいいのかもしれない。
 結局は駆け引きのスポーツ。ルールを守る事が前提だが、勝負をする上で、さまざまな視点、可能性をどれだけ考えるかが大事だと感じるのだ。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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