現在防御率1位―38歳黒田、進化の秘密
日本人投手としては初の防御率タイトルももう夢ではない
現在ア・リーグ防御率1位、38歳にしてなお進化する黒田の秘密はどこにある? 【Getty Images】
1位 黒田博樹 2.41
2位 アニバル・サンチェス(タイガース) 2.45
3位 フェリックス・ヘルナンデス(マリナーズ) 2.62
4位 ダルビッシュ有(レンジャーズ) 2.68
5位 クリス・セール(ホワイトソックス) 2.78
“ヤンキースのエース”と呼ばれるようになって久しい黒田博樹が、ア・リーグの防御率争いでもトップに立っている。2位以下にも各チームのエース級が並ぶ中で、まさに堂々の成績。野茂英雄が1995年にマークした2.54という日本人歴代最高防御率の更新のみならず、日本人投手としては初の防御率タイトルももう夢ではない。
「(数字は)今でも出来過ぎだと思います。まさか誰もがこの年齢でこんな位置にいるとは思ってなかったでしょう。自分の中で気を引き締めてこれからもやらなければいけない。その積み重ねですね」
本人は謙虚な姿勢を保ち続けているが、例えば7月の月間防御率0.55(5度の登板で33イニングを投げて2失点のみ)といった数字はもうまぐれとは思えない。打線の援護に恵まれないために勝ち星こそ11止まりだが、投球内容を考えれば、今やメジャーを代表する先発の1人として認められて良いのだろう。
2011年オフにヤンキース移籍が決まった際、打者有利の本拠地、リーグへの適応が心配されたのが遥か昔のことのよう。何より驚くべきは、ドジャース時代と比べて、あるいは昨季と比較しても、今季の黒田はより優れたピッチャーに進化しているように思えることだ。
「昨季も素晴らしかったけど、今年はさらに上質なピッチングを続けているね」
ここ2年はヤンキースに所属するクリス・スチュワート捕手もそう語り、その向上ぶりを認める。それが事実だとすれば、かなり珍しいキャリアの推移と言える。黒田本人も語る通り、本来ならば下り坂に入るはずの38歳という年齢にして、メジャーキャリアでも最高のピッチングが出来ている原因はいったいどこにあるのか?
健康な身体と抜群の制球力、そしてキャリア
ア・リーグ某チームのベテラン・スカウトに意見を求めると、そんな答えが返って来た。今季25先発を終えた時点での黒田の与四球は29で、ケガに悩まされ21試合の登板に終わった2009年を除けば、最少を記録することが濃厚。ただ四球を出さないだけではなく、思い通りのコースに投げる能力にも磨きがかかっているのだろう。
「0−3のカウントからでもスライダーでストライクが取れる。スプリッター、速球の制球も良く、1つの球種に頼る必要もない。どんなボールも、自分の投げたい場所にそれほど狂いなく投げられているように見える。それゆえに三振を獲ろうと思えば取れるし、必要に応じてゴロを打たせることもできる」
黒田のコントロールについて尋ねると、スチュワート捕手も目を細める。事前に立てたプラン通りの場所に決まって投げてくれるのだから、キャッチャーにとってもリードするのがこれほど楽しい投手もいないのだろう。
さらにア・リーグのもう一人のスカウトは、38歳という年齢を強調しようとする筆者に対し、加齢は必ずしも常にマイナスに働くものではないと指摘してくれた。
「歳をとり、経験を積むことでより簡潔な投球ができるようになる場合もあるんだ。自分の身体を知り、調整方法もより理解し、フォームも安定する。不調時の適応能力にも磨きがかかる。相手打者に関する知識が増して行くという意味でも、キャリアというのは大事なもの。もちろん加齢とともに思い通りの投球ができなくなる投手もいるが、一部の優れた投手は適応できるんだよ。黒田もその中の1人だったということなのだろう」