錦織圭、トップ10に向けた厳しい戦い=真の強者へ 全米オープンは通過儀礼

内田暁

全米オープンに臨む錦織。トップ10入りも期待されるが、厳しい戦いとなりそうだ 【Getty Images】

 錦織圭、夢のトップ10入りなるか――。

 この半年ほど、日本テニス界にとって最大の注目事項は、この一文に尽きると言っていい。世界の19位で今季を迎えた錦織圭(日清食品)は、シーズン当初より「自分にとっても、チャレンジ」であることを承知の上で、あえて「トップ10が今年の目標」と公言。5月下旬〜6月上旬の全仏オープンを終えた時点で13位、さらに6月下旬のウィンブルドン開幕前には11位にまでランキングを上げ、公言した数字に限りなく肉薄してきたのだ。

トップ10目前で続く足踏み状態

 しかしそこから先は、やや足踏みが続いている。ウィンブルドンは3回戦で敗退。続くワシントンDC大会(シティオープン)とモントリオール大会(ロジャーズ・マスターズ)も3回戦。そして、全米オープン前最後の前哨戦となるシンシナティ(ウェスタン&サザンオープン)では初戦敗退。その間のランキングは、11位から12位と、ほぼ横這い状態で約2カ月が経過している。

 これら、トップ10入りを目前にして戦った4大会の戦績を見て、一つ興味深いことに気がついた。モントリオールで対戦したリシャール・ガスケ(フランス)を除くと、錦織が敗れた選手はランキング的には錦織より下。そして、それら3選手はいずれも、直近の対戦では錦織が勝利している相手なのだ。しかも、ワシントンDCで敗れたマルコス・バグダティス(キプロス)は昨年10月の楽天オープン準決勝、シンシナティで敗れたフェリシアーノ・ロペス(スペイン)は今年2月のメンフィス大会決勝と、いずれも大舞台で錦織が破ってきた選手。相手にしてみれば、敗戦の記憶は大舞台で敗れた悔しさと、分かちがたく結びついているはずだ。

先輩選手と新戦力が刺激し合い生まれるドラマ

 テニス選手は往々にして、特定の相手に連敗することを嫌う。しかも、それが自分より年少者となれば、なおのことだ。今後、何度も対戦するであろう新勢力に自信を抱かせてしまえば、それは自身の地位が脅かされることを意味する。だからこそ、キャリアの長い選手ほど、若い芽を容赦なく摘みに来る。例えば、先のシンシナティ大会で若手の台頭について聞かれた世界2位のラファエル・ナダル(スペイン)は「もちろん、僕達は永遠にプレーできるわけではない。新しい世代が取って代わるのは当然のことだし、それは歴史が証明している」と言った後に、こう続けた。
「でも、彼ら若い選手は、グランドスラムで優勝するなどの、大きな結果を残す必要がある。僕らがいる間にね」

 世代交代を成したいなら、俺たちを倒しその力を証明してみろ……そのような静かな矜持が、淡々とした口調と強い光を放つ瞳に宿っていた。このナダルの言葉は、他の選手の気持ちを代弁するものでもあるうだろう。2週間前にトップ10入りを果たした22歳のマイロス・ラオニッチ(カナダ)が、わずか1週間でその地位から突き落とされたのも、彼の躍進が先輩選手たちの危機感とプライドを刺激した側面もあったはずだ。

 もっとも、そのラオニッチのトップ10入りに刺激を受けたのは、錦織も同じだろう。「素直にすごいと思います。最近は若い選手がなかなか出てこられないので、彼のような選手が上がってくるのは、テニス界にとって良いことだと思います」

 ラオニッチの快挙をそう素直に賞賛した錦織だが、彼も実は、年少者に対し意外なまでに対抗意識を燃やす一面がある。かくのごとくテニス選手たちは、互いに刺激し合い、過去の戦いと未来への布石をより合わせながら、さまざまなライバルストーリーや名勝負史を紡いでいくのである。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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