プロへの土台を作るユース年代の食生活=Jクラブに広がる食事を大切にする気風

川端暁彦

育成年代の試合時間を悩ませる“暑さ”と“食事”

横浜FMユースが優勝した日本クラブユースサッカー選手権。この大会では朝9時からの試合も実施されたが、現場の反応はいまいち。その理由の一つには食事の問題があるようだ 【写真:松岡健三郎/アフロ】

 今夏は次々と観測記録が打ち立てられるなど、記録的猛暑となっている。筆者も職業柄、外で過ごす時間が長いのだが、確かに暑い。この時期は総じてナイトゲームとなるJリーグはまだいい。育成年代の試合はこの時期でも専らデーゲーム。俗に「太陽に食われる」という表現があるけれど、そんな形容の似合う試合が頻発するのも無理はないところである。今回は、そんな暑熱の日々だからこそ考えるべきテーマについて、一つ書いてみたい。

 夏の暑さで全国的に知られる群馬県で、今年もまた高校生の全国大会が開催されていた。アディダスカップ日本クラブユースサッカー選手権(U−18)大会。部活ではなく、クラブチームでサッカーをすることを選んだ高校生たちの夏の祭典である。インターハイ(全国高等学校総合体育大会)という部活の祭典と同時期に開催されている。アディダスカップはかつて福島県のJヴィレッジで開催されており、比較的涼しいことで知られていた。だが、東日本大震災の惨禍を受けて、大会は群馬県での広域開催に移行することとなった。

 必然、大きな問題となったのが“暑さ”である。群馬開催3年目となる今年は、その対策が実施された。すなわち、朝9時キックオフというアイデアである。ナイター設備のない会場がほとんどという現状を思えば次善の策として悪くないように思われたが、現場の反応は今ひとつ。清水ユースの大榎克己監督は「結局、一長一短なんだと思う」と語る。「9時開始だと、5時起床になるから」と言う。なぜ、5時起床なのだろうか?

 理由は“食事”である。何を食うかという問題はもちろんある。試合前の食事はパスタが適切だという説があるのだが、朝にパスタ? いやもちろん、そういった疑問も出てくるだろうが、ここで問題視されたのはそれ以前の話。「いつ食うか」という問題だ。試合前の適切な食事時間については諸説あるのだが、「遅くとも3時間前」というのが一般的。「試合までに食事が消化されていないとパワーが出ない」という理由からで、食べる物によって、あるいは個人の消化能力の差を考慮しても、もう少し前がいいのだろう。よって「遅くとも5時起床」になってくる。それなら「早く寝て早く起きればいいだけじゃないか?」と言われそうだが、これが簡単な話ではない。

「夜型人間」になりやすいユース所属選手

 読者の皆さんはJクラブのユースチームの一般的な練習時間をご存じだろうか? クラブごとの差はあるが、総じて18時〜19時くらいに始まり、20時〜21時くらいに終わる形が一般的だ。火曜から金曜まではこの日程で過ごし、土日は試合をこなして、月曜日がオフ。そんなスケジューリングが多い。朝練は一部のクラブを除いて基本的にない。選手が別々の学校に通い、交通機関を介して練習場に集まれる時間を考えると、練習開始時間は遅くならざるを得ない。この場合、食事のサイクルはどうなるだろうか? 家に帰って食べるとなると、かなり遅くなる選手も出てくる。選手の中には群馬県から横浜市へ“新幹線通J”するような選手もいて、幅も多い。食事を取るのは21時から23時といったところだろうか。食事を取ってすぐに寝るのはこれまた良くないのだが、どちらにしてもJクラブのユース所属選手は結果として、朝に弱くて夜に強い「夜型人間」になりやすい傾向はある。

 指導者養成の過程で教わるのは、どうしても「ピッチの上で選手と関わる」時間になりがちである。練習に創意工夫を凝らし、試合で選手を導くのが指導者の仕事だといえばそのとおりなのだが、せっかくの良いトレーニングも、適切な食事や睡眠なくしては効果を発揮できない。夕食が遅くなることが影響して、朝食をまったく取らない、あるいは少量しか取らない選手がいることも分かってきた。また、生活が夜型になることで遅刻する選手が続発して学校側で問題になるといったクラブも出てきた。結果として、夜の試合に強く、朝の試合に弱い傾向も生まれてしまうし、そもそも「早く寝る」という習慣自体が育たない傾向があるのである。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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