FCソウルの躍進を支える日本人の存在=韓国で存在感を高める菅野淳
韓国の若きタレントが急成長した要因
過去5年間で3度の優勝と韓国勢はACLで結果を残しているだけに、FCソウルにも期待がかかる 【Getty Images】
「ACLのタイトルを取るために一番大切なのは、自分たちのストロングポイントを前面に押し出して戦うこと。ウチはパスサッカーを主体としたチーム。普段の練習でもそこを重視しています。ホーム&アウエーの2試合をトータルで考えながら戦うことも大事ですね」と細かいことに気を配りつつ、今回のアル・アハリ戦への準備を進めてきた。
確かにFCソウルには、浦和レッズから移籍したエスクデロ・セルヒオや東アジアカップで目覚ましい活躍を見せたユン・イルロク、コ・ヨハン、ハ・デソン、コロンビア代表のマウリシオ・モリナらスキルの高い選手が数多くいる。彼らの特性を生かしつつ、主導権を握ることが、アジア制覇へのポイントになってくる。
「ユン・イルロクを筆頭に、韓国人選手はギラギラしているやつがたくさんいる。彼なんかもそんなにうまくないのに目の色が違う。監督に『こいつは使いたい』と思わせる迫力がありますね。ハ・デソンは遠藤保仁みたいにパスの配球に長けていて、コ・ヨハンはダイナミックに前へ出られる選手。そういう彼らがどんな働きを見せるかがカギになると思います」と菅野コーチも期待を寄せる。韓国の若きタレントたちが急速に成長を遂げているのも、日本人フィジコのアプローチによる部分が大きいのだろう。
勝負に強くこだわるKリーグ
「韓国の選手はボールを挟んだ局面で際立った強さを発揮します。1対1の体の寄せ方、ボールを奪うか奪わないかの駆け引きはJより明らかに上。日本の選手は守備で間合いを空けすぎる傾向が強いと思います。
まずインターセプト、次に相手を振り向かせない、そして相手を遅らせる……というのが守備の3原則ですが、今のJリーグでは相手を振り向かせるのが当たり前になってしまっている。そのあたりがアジアで苦戦する要因なんでしょう。
サイドでの寄せも日本の選手は甘いところがある。相手に余裕を持ってクロスを上げられてしまったら、高さで下回る日本勢はどうしても失点が多くなりますね。
オープンな打ち合いが多ければお客さんは喜ぶし、Jリーグ自体は盛り上がるかもしれないけど、勝ち負けという部分では考えないといけない。韓国の場合は逆に激しいプレーが多すぎてエンターテイメント性に欠けるため、Kリーグの観客動員が伸び悩んでいます。それでもACLでは勝っている」と菅野コーチは勝負に強くこだわる韓国サッカーの長所を分析する。
Jリーグが経済的苦境に陥り、質の高い外国人選手を連れて来れなくなったのもACLで勝てなくなった大きな要因といえる。「中東勢も強化に巨額の資金を投入している。もはや各国代表クラスの選手がFWやDFにいないとACLでタイトルを取るのは難しい」と彼はしみじみと語っていた。
東アジアカップでは日本が辛うじて勝ったが、近年のクラブレベルでは、ACL上位チームの数は韓国の方が上。代表レベルで勝ったことで楽観せず、その現実をしっかり見つめないと、ACLのタイトル奪還は当面、難しいかもしれない。しかもその韓国で、経験豊富な日本人フィジコが韓国人に足りない応用力や柔軟性、状況判断力を持たせる努力をしているのだから、韓国サッカーはさらにレベルアップするかもしれない。菅野コーチのような人材にはいずれ、近くて遠い異国での経験を日本サッカーに持ち帰ってほしいものだが……。
今後の彼自身の活躍とFCソウルの戦いぶりから目が離せない。
<了>