FCソウルの躍進を支える日本人の存在=韓国で存在感を高める菅野淳

元川悦子

韓国クラブでACLを戦う日本人

FCソウルでフィジカルコーチを務める菅野氏は、日本と韓国の違いをどう見ているのか 【元川悦子】

 2013年のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)が8月21日から再開し、タイトルを懸けた勝負がいよいよ本格化する。日本ではJリーグ勢で唯一、8強入りを果たした柏レイソルの動向が注目されているが、日本人が参戦するクラブがもう1つある。かつてジュビロ磐田の黄金期を支え、04年アテネ五輪代表チームでも指導した菅野淳氏がフィジカルコーチを務める12年Kリーグ王者・FCソウルだ。

 彼らは21日にサウジアラビアに乗り込んでアル・アハリと対戦。ベスト4入りを目論んでいる。韓国勢は09年の浦項スティーラーズ、10年の城南一和、12年の蔚山現代と過去5年間で3度のアジア王者に輝いている。それだけに今季はFCソウルにかかる期待が国内では大きいようだ。

 菅野コーチは07年から働いていたヴィッセル神戸との契約が10年末に満了。新天地を探していたところ、FCソウルを率いていたファンボ・カン監督(現大韓協会技術委員長)から「韓国に来ないか」と誘いを受け、11年頭にソウルへ赴いた。そのファンボ・カン監督がシーズン開幕直後の4月に解任され、チェ・ヨンス現監督が後を引き継いだ。彼は磐田時代に選手と指導者という間柄でともに仕事をしたことのある菅野コーチに「そのまま残ってほしい」と打診。菅野コーチも快諾し、現在に至るまで二人三脚が続いている。彼らのチームマネジメントが成功し、FCソウルは昨季Kリーグで2年ぶりの優勝。今季は目下4位だが、首位の浦項スティーラーズとの勝ち点差はわずか5で、まだまだ連覇を狙える位置にいる。

反日感情が高まるも風当たりは強くない

「日本人が韓国人を教えるなんて以前は考えられなかったことですが、監督ではなくフィジコという立場だから可能だったのかなと思います。すでに韓国五輪代表で池田誠剛さん(現杭州緑城&韓国代表フィジカルコーチ)がフィジコを務めていて、僕自身もスムーズに入ることができました。今はFCソウルのコーチングスタッフの中で自分が一番年上。年功序列を重んじる傾向の強い韓国ではリスペクトしてもらっています。監督のチェ・ヨンスが僕らの意見に積極的に耳を傾ける人物というのもありがたい。試合を控えたミーティングの際、コーチングスタッフ全員にスタメンとベンチ入りメンバーのリストを提出させるくらいですからね」と彼は自身の置かれた環境に感謝する。

 7月28日の東アジアカップ・日韓戦(ソウル)で出された横断幕(編注:「歴史を忘却した民族に未来はない」と書かれた巨大横断幕が掲げられた)に象徴されるように、韓国では反日感情の高まりが深刻化している。日本人コーチへの風当たりも強いのではないかと危惧されるところだが、「ウチはブラジル人、モンテネグロ人などいろんな国の人が集まる多国籍軍。居心地の悪さは感じません。11年8月の日韓戦(札幌)で日本が韓国に3−0で勝ったことも日本サッカーへのリスペクトを高めた。それも追い風になっていますね」と菅野コーチは前向きに言う。

 韓国でフィジカルコーチという存在が皆無に等しかったことも、彼らの存在価値を高めている。Kリーグではブラジルからフィジコを連れてくる例があったものの、自分のやり方に当てはめるブラジル流アプローチが韓国人には合わなかったようだ。そんな中、日本でプレーしたホン・ミョンボ現韓国代表監督が池田氏を招聘(しょうへい)。続いて菅野コーチも韓国へ渡った。さらに08年北京五輪代表スタッフの一員だった矢野由治氏が城南一和、FC東京で長く指導した土斐崎浩一氏も今季から蔚山で指導に携わっており、合計4人の日本人フィジコが韓国で働いているのだ。

日韓のフィジカル特性

「韓国人選手のスピードやパワーは日本人選手に比べて段違いに高い。トレーニングの中でフィジカル系の内容が日本とは比べ物にならないほど多いのがその一因でしょう。正直、『この国にはフィジカルコーチはいらないな』と思ったほど。日本では選手を追い込む練習を多くしていましたが、韓国ではブレーキをかけるのが僕の役割の1つですね。

 彼らの身体能力が高いもう1つの要因が食事。炭水化物摂取の比率が多い日本人と違って、韓国人はタンパク質を多く摂るので骨格がガッチリしている。ウチの選手も週3〜4回は焼肉を食べてますから。そういう面は日本も参考にした方がいいかもしれません。

 ただ、その能力を使いきれていないのが韓国人の問題。身体能力をより効果的に発揮できるような股関節の使い方やステップさばきなどを身に付けさせたいと考え、工夫を凝らしてきました。2手3手先を読んだ応用力が求められる動きも苦手としているので、判断が伴う内容を盛り込んだ練習も多くしています」と菅野コーチは日韓のフィジカル特性とトレーニング方法の違いについて説明する。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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