揺るがぬ柱へと成長する木村沙織の変化=主将として若手を先導するも根は自然体

田中夕子

宮下のために決めた1点

木村はキャプテンとして、得点時は誰よりも喜びを爆発させる 【坂本清】

 会場を埋め尽くす満員の観衆が詰めかけた仙台市体育館。三連戦の最後を飾るチェコ戦、2−2で迎えた最終セット。1本のプレーが行われるごとに、歓声や声援がこだまする中、コートに木村沙織の声が響く。

「ハルカ、こっち!」

 9−7と日本が2点をリードした場面だった。
 それまでなかなか止められなかったチェコのミドルブロッカー、ミハエラ・モンゾニのワンレッグ(編注:ジャンプの際に片足で踏み切ること)での攻撃をレフトでブロックに跳んだ木村がワンタッチを取り、チャンスボールがつながる。
 響いたのは、助走に入るべく素早く外に開きながら、セッターの宮下遥を呼ぶ声だった。

「ハルカはトスを上げるときに、まだ迷いがある。どうにか自信を持ってプレーしてほしいし、そのためにはスパイカーがトスを呼んで、それを決めることが一番だと思うので、困ったときや、迷ったときは『全部私に持ってきて』と言ったんです。苦しいときこそ、自分が頑張らなきゃいけない。セッターを助けてあげたいです」

 2枚ブロックの間を豪快に木村が打ち抜き、日本に10点目が加わる。
 エースとして、キャプテンとして。誰よりも笑顔で両手を叩き、飛び跳ねながら、木村が歓喜の輪に駆け寄った。

キャプテン就任後の行動

 ロンドン五輪を終え、新チームが始動した。

 竹下佳江や佐野優子など、これまでチームの精神面、プレー面でも主軸として活躍してきた選手たちがチームを離れる中、キャプテンに任命されたのが木村だった。

 ただでさえ、サーブレシーブの要であり、攻撃の柱でもある。さらにそこにキャプテンという大きな責務が加わる。これまでとは違うプレッシャーを抱え、初めて臨んだ国際大会が、このワールドグランプリ。

 木村自身は「キャプテンだから何かやらなきゃ、ということはない」と言うが、5月の合宿に合流した木村の姿を見て、真鍋政義監督は明らかな変化を感じていた。
「自分のことよりも、チームのことを第一に考えるようになった。特に、新しく入ったメンバーたちとは、いろいろな形でコミュニケーションを取る努力をしていました」
 バレーの話ばかりではなく、好きな美容グッズや、テレビの話。経験や年齢で壁をつくるのではなく、練習前や食事中、ちょっとしたときに自分から声をかけた。選手同士でのミーティングの機会も増やし、全員が積極的に発言する機会を設けてきた。

 ワールドグランプリが始まってからは、対戦相手のデータをもとに、技術面のポイントとなるのは何か。チームの課題を克服するために、それぞれの役割を確認し合う。そして、最後は必ず木村の言葉で締める。
「みんなでまとまろう。チームとして、戦っていこうね」
 決して内容が良い試合ばかりではなかったが、トルコ、ポーランドの各ラウンドは6戦全勝。上位5カ国と開催国の日本、6チームが5連戦で激突する札幌での決勝ラウンドに向け、最高の状態でホーム・仙台での試合を迎えたはずだった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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