中本の入賞に日本の世界での戦い方を見た=瀬古氏らが語る世界陸上男子マラソン総括

構成:スポーツナビ

安定感あれば勝てることを証明(金哲彦)

中本(写真中央)がメダルまであと一歩のところまで迫り、日本男子マラソン勢も世界で戦えることを証明した 【写真は共同】

 中本選手がメダルまであと一歩というところまで迫ってくれる良い走りをしてくれました。「暑さに強い」「粘りがある」というのは分かっていましたし、本人ももうちょっとでメダルに届きそうだったということで、悔しい思いもあるのではないでしょうか。
 もちろん、まだ差があるので手放しでは喜べませんが、日本人でもここまでやれることをしっかり証明してくれたということはうれしいです。

 中本選手の走りは一番余裕がありました。気温というよりも日差しが強く暑い中、帽子もしっかりかぶって対策し、レース運びも含めて、いけると思ったのでしょう。今日はスピードレースというよりも、サバイバルレースの展開でした。最後のスピードの変化につけなかったのは惜しかったですね。もう一度対応できていれば、メダルに手が届きそうでした。
 彼はマラソンの42.195キロを走る能力が非常に高く、メダルまで随分近づいたと思います。あとは最後のペースアップに対応できるかどうか。こういうサバイバルレースに強いということ、日本男子も戦えるということを証明してくれました。

 藤原選手、前田選手、川内選手も結果的に順位は上がりませんでしたが、しっかり前から落ちてきた選手を拾う、粘りあるレースをしてくれました。ですので、ほとんど前回のテグ大会と同じ展開だったと思います。棄権してしまった堀端選手に関しては、準備不足が大きな影響をしたのだと思います。

(優勝については)記録的にはエチオピアの選手が強いはずですが、このようなレースだと勝負強さが大事で、結局、五輪チャンピオンが優勝しました。勝ち方をよく知っているということです。決して速いわけではないのですが、夏の大会に強いことを証明しました。日本人選手もこのような走りを心掛け、ベストな走りをすれば、メダルに近づけるのだと思います。
 今のマラソンは2時間4〜5分台というのが冬のレースではあります。ですが、どんな状況でも安定した走りを見せていれば、今回優勝したキプロティチ選手のように勝てるはずです。

 スピードと安定は相反するようなものと感じるかもしれませんが、安定感があれば勝てることを証明してくれたので、日本人には良い結果だったと思います。

日本人選手の良さが見られた(榎本靖士)

 日本人選手の良さが非常に見られたレースでした。暑くなったらどうする、涼しくなったらどうするといった、さまざまなケースの情報が集められていて、準備がされていたため、レースの流れにきちんと対応でき、良い結果につなげられたと思います。

 5位に入賞した中本選手が良かったのは、10〜15キロでペースが上がった時の対応だったと思います。川内選手もそうでしたが、ペースが上がったところで、集団の前方にスッと上がっていって、良い位置でレースをしていたと思います。ペースアップへの対応が、特に中本選手はうまくできていたことが5位入賞という結果につながったと思います。

 レース前に不安があると、なかなか自分の良いものを出せないところではあると思いますので、中本選手はトレーニングを積んだということだけでなく、自分のレーススタイルをよく理解して、自信を持って臨めていたように見受けられました。ペースアップした時も心に余裕があるように映りましたし、20〜30キロで先頭のペースが落ちたという中で、日本人選手の持ち味である粘りの走りができたというのが勝敗につながったと思います。中本選手は「後半も粘れる」という自信が、終盤の粘りの走りを引き出したのではないでしょうか。

 スタート時の気温は24.4度ということでしたが、一般的には25度以下ならペースが上がると言われていました。それが序盤スローペースに入っていたところを見ますと、結構暑かったのかなという印象を受けました。気温以上に選手は暑さを感じていたように思います。湿度やふく射熱、風などトータルで暑さは決まるものですので、今回のレースのデータをしっかり分析したうえで、今後の対策にしたいなと思いました。

 夏マラソンは暑さに重点を置いた対策をしてきました。ただ、北京五輪でサムエル・ワンジル選手(故人)が夏マラソンでありながら2時間6分台で走り、世界が高速化する中で日本人選手が活躍するのは厳しいという評価になっていました。しかし、今回のレースで外国人選手であっても夏マラソンが必ずしも強い訳ではないということが改めて分かりました。今回のペースである1キロ3分05秒ペースであれば、日本人選手は強さを発揮できます。2時間9〜10分台であれば、十分勝負できるということが改めて証明されたと思います。「夏マラソンの対応」に関しては、暑さ対策の蓄積が日本にはあります。例えば、今回のレースでは、首の後ろを守る帽子を選手たちが被っていたと思いますし、給水の取り方ひとつでもノウハウや研究が進んでいます。夏マラソンでも3分に近いペース、冬場のマラソンで日本選手が出しているタイムに近付ければ、今後、メダルの可能性が高まると、中本選手の走りが示してくれたと思います。

 一方、1キロ3分ペースという「世界の高速レース化への対応」は今後も課題となります。しかし、いろいろな研究を見ていますと、日本選手も戦えると私は思っています。日本の長距離選手は層が厚いですし、実業団という恵まれた環境でトレーニングを継続して取り組むことができます。ですので、十分チャンスはあります。今回、前述したような中本選手の走りによって、世界に近づくことができたのは非常に良い例になると思います。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント