野球の母国・米国から見た“甲子園”

永塚和志

全国大会という概念の無い米国

センバツでの連投ぶりが、米メディアにも取り上げられた済美の安楽(右)。写真は、夏3回戦後にカメラマンに囲まれる安楽 【写真は共同】

 全国高校野球選手権――いわゆる“夏の甲子園”。今夏も日本中がこの聖地・甲子園球場での熱戦に注視する。
 プロレベルでは毎年のように日本人選手がメジャーリーグへ行き、またWBCの存在もあって、米国を中心とした海外の人々にも日本野球の認知度は多少なりとも上がっている。
 では、この甲子園という日本のアマチュアスポーツ最大のイベントを、外国は、というよりも野球の母国・米国はどう見ているのだろうか。

 身も蓋もないことを言ってしまうと、どうやら外国人はその存在すら認識していないようだ。
 米ヤフースポーツでメジャーリーグを中心に取材するジェフ・パサン記者は、「あくまで推測なのだけれど」と前置きしてこう答えてくれた。

「一般の人も含めて甲子園のことを知っているのは500人に1人くらいではないかな。これがちょっとした野球ファンならば50人に1人、熱心なファンなら5人に1人くらいになるだろうか」

 そう、米国人は甲子園のことを知らないのだ。無理もない。野球、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケーをはじめとして多様なスポーツが人気を博しているのにわざわざ国外の、高校生の一大会に興味を持つのは珍妙なことだ。
 そもそも、高校生の段階で全国優勝を懸けるというコンセプト自体が米国人にはない。一般的に高校生以下の年代はどちらかと言うと育成の時期とされ、野球に限らず全国大会というものが主要な競技ではない。各州のチャンピオンが手に入れることのできる最高の栄誉だ。

日本文化を象徴する 『Koukouyakyu』

 とは言え、米国人の中にも甲子園という特有の野球世界に興味を持つ人が皆無なわけではない。パサン記者も「甲子園は大好きさ」と言う。メジャーリーグや日本のプロ野球とも違う、日本固有の野球文化に惹かれるのだろうか。

「あの興奮、壮大さ、伝統、そして何よりもこの大会を通してスポーツと社会が一体となって、日本特有の文化を作り出しているところだね」

 英語系メディアでもいくつかの媒体が甲子園を紹介している。近年書かれたもので最も秀逸なのは、2003年にニューヨーク・タイムズ紙のケン・ベルソン記者が記した『A Shrine to Baseball as a Martial Art(“武道野球”の聖地)』と題された記事だろうか。実際にこの年の夏の大会を取材したと思われるベルソン記者は、この記事の中で甲子園を「若者たちのハードワークと純粋さの総本山」と表現しつつ、肯定するでもなく否定するでもなく、終始落ち着いた筆致でこの日本の一野球文化を紹介している。
 映像の方では、06年に米PBS(公共放送サービス)で放映された『Kokoyakyu: High School Baseball』も好作だ。強豪・智弁和歌山高校と大阪府の公立・天王寺高校の、夏の甲子園を目指す過程においての練習風景、地方大会の模様、その他応援団など日本独特な文化をインタビューを交えたドキュメンタリーとして仕上げている。
 ベルソン記者の記事と『Koukouyakyu』で描かれる日本の高校野球の特徴は、技術よりも精神性を重んじているところであり、前者の記事の題にもあるが、野球の練習(修練と呼ぶべきか)を武道にすら例えているところだ(宗教的で甲子園は選ばれし者たちの巡礼ですらある、とベルソン記者は書いている)。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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