瀬古氏がモスクワで馳せる長距離界の未来=33年前の五輪「出ていたら、優勝だよ」
1980年のモスクワ五輪、絶頂期を迎えた瀬古氏だったが、東西冷戦下で日本はボイコットし、その後もメダル獲得はなかった。今回33年前に来るはずだったモスクワで瀬古氏に話を聞いた 【写真は共同】
今回のメーン会場となっているモスクワのルジニキ・スタジアムは、1980年に開催されたモスクワ五輪の舞台。米国と旧ソビエト連邦の冷戦下にあり、日本がボイコットを行った大会でもある。
その当時、日本の長距離界で大スターだったのが、現在マラソンや駅伝の解説でおなじみのDeNA Running Club総監督の瀬古利彦氏だ。早稲田大入学からの4年間は箱根駅伝や国内のマラソンレースで活躍。79年には福岡国際マラソンを制し、翌年のモスクワ五輪出場権を獲得した。しかし、前述のボイコットのため五輪には出場できず。84年のロサンゼルス五輪は14位という結果に終わった。
スポーツの世界に『たられば』は禁物と言うが、モスクワ五輪に瀬古氏が出場していたら金メダルは確実だったと語る人も少なくない。では実際、本人はどう感じているのか? モスクワを訪れている瀬古氏にインタビューを試みた。
東京五輪招致で「モスクワの無念もぶっ飛ぶ」
「五輪と世界選手権は違いますから。モスクワへの思い入れはありません。自分自身、思わないようにしています。もちろん、周りの人が言うので思い出しますけどね(笑)。
私の中では五輪と世界選手権は違うレースであり、出場する選手の顔ぶれを見ても分かる通り、(世界選手権は)本当の世界一を決める大会ではないという印象です。特に今年はロンドン五輪の翌年ですので」
――五輪と世界選手権では重みが違うということですね。
「そうですね。モスクワで世界選手権が行われるということよりも、私自身、(2020年に)東京に五輪が来てほしいと願っています。そうしてくれれば、モスクワ五輪の無念なんてぶっ飛んでくれます。今の日本のスポーツ界を盛り上げるには、それが一番大事なんです」
――瀬古さんにとって、世界選手権の位置づけは?
「もちろん、世界大会に出るということは、世間の注目が集まります。そのことによって、チーム強化にも力が注がれますし、私の場合はDeNA陸上部に属していますので、会社への恩返しにもなると思っています。ですから、選手にはどんどん世界大会に参加してほしいと思っています」
佐藤、大迫らにマラソンでの活躍を期待
――瀬古さんがモスクワ五輪に出ていたら、金メダルは確実だったとよく言われています。
「優勝していますよ(笑)。その気持ちで練習していましたから。(優勝した選手が)ワルデマール・チェルピンスキー(旧東ドイツ)だったので、勝っていたと思いますよ(編集部注:80年の福岡国際マラソンなど、チェルピンスキーと同レースに出場して何度も勝ちを収めている)。当時の私は絶好調でした。若いし、考えなくても体が動く、そういう時でした」
――やはり悔しさはありましたか?
「当時の私は現役ですし、終わったことは考えていられませんでした。五輪が終わったらヨーロッパに渡って、1万メートルで日本記録を出すと決めていましたので。実際に記録も出しました(27分42秒17)。当時の歴代十傑に入る記録でした。マラソン選手が1万メートルのランキングに入るということは、スタミナも、スピードもあるということなので、絶対勝っていたに決まっています。99パーセント勝っていたと(笑)」
――では、瀬古さんのようにスピードもスタミナもある日本選手が今後出てきてほしいと思いますか?
「出てきてほしいですね。もちろん、急には出てこないとは思いますが。やはり、トラックで戦える選手が出てこないといけないと思います。27分台前半で1万メートルを走るぐらいの選手が、マラソン選手としても走ってくれないといけませんね。それがケニア、エチオピア勢と同じという意味ですから」
――今、日本にそれに近い選手はいると思いますか?
「そういう選手はいると思いますね。今回の1万メートル代表となった、佐藤悠基くん(日清食品グループ)、大迫傑くん(早稲田大)、宇賀地強くん(コニカミノルタ)などが真剣にマラソンやるぞって顔になった時には、チャンスがあると思いますね。今からそれをしないと3年後に活躍するのは難しいですし、7年後を見据えると今からやってほしいです」
――2020年に向けて、マラソン選手の育成をしていきたいということですね?
「そうですね。1年1年実力をつけて、だんだん積み重ねていき、20年に合わせてほしい。その時には、誰が出ても勝てるという状態でいてほしい。日本チームとして層が厚くないといけませんね。私自身は、まずは自分のチームの指導しかできませんので、そういう選手を育てていこうと思います」
<了>
(取材・尾柴広紀/スポーツナビ)
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