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十種競技愛50年 今なお情熱止まず
普及活動で世界を飛び回るある米国人の話
男子十種競技を50年以上専門的に取り上げ、エキスパートとして活動するスワロウスキー氏
男子十種競技を50年以上専門的に取り上げ、エキスパートとして活動するスワロウスキー氏【スポーツナビ】

 10日に開幕した陸上の世界選手権モスクワ大会もきょうを含めて残り2日となった。収容人数7万8000人の大型スタジアムであるルズニキ・スタジアムには、観客、関係者、メディアなど、多くの人々が各国から集まり、日々盛り上がりを見せている。


 全世界に放送、報道するメディアの中には、各国の活躍を取り上げるだけでなく、競技の普及に努める専門家もいて、日々その活動に余念がない。今回は、男子十種競技を50年以上専門的に取り上げ、同種目の“エキスパート”として知られるフランク・スワロウスキー氏に、活動の内容などを聞いた。

趣味から始まった十種競技の普及活動

 米国出身の71歳。「人生の20パーセントは、空港で過ごしているようです」と笑うフランク氏は、十種競技の大会があると現地に赴き、競技データや選手情報を集め、自身のウェブサイト(http://www.decathlonusa.typepad.com/)で情報を公開している。また、テレビやラジオなどでコメントも求められ、競技解説などを行っている。

 大小問わず、年間で調べる競技会は300以上。シーズンのスタートとなるオーストラリアの大会にはレフェリーとして25年も続けて参加していると話す。


 もともとは米国ニュー・ハンプシャー州にある大学で教べんを執り、経済学者としても活動していた。現在は客員教授のような形で携わるが、そのほかの多くの時間を十種競技の普及に努めている。

「十種競技の研究は趣味で行っているので、金を稼ぐ手段とは考えていません。この競技が好きで、選手が好きでやっています。世界の人々に十種競技を覚えてほしいというのが私の夢です」


 日本より競技人口が多い米国であっても、十種競技の市場はまだまだ狭い。これまで十種競技に関わる本を9冊書いてきたが、出版に際しては、なかなかスポンサーが見つからないのが現状のようだ。

「全米陸上競技連盟やそのほかのサポートなども受けていない。私の場合、十種競技のデータを集めるだけでなく、競技の歴史を示すような本も書いています。最近では古代ギリシャの五種競技からの流れを書きましたが、ギリシャ語の文字を読むのが大変だった(笑)」

 それでも、競技の普及のために日々活動しており、今はインターネットを使ってニュースレターを陸上ファンに送っている。

「長年やってきたこともあり、年間200万人ぐらいが私のニュースレターを購読してくれています。今回の世界選手権では、全部で4回のニュースレターを書きました」

「右代も経験を積んでほしい」

 十種競技の面白さは、走力(100メートル、400メートル、1500メートル、110メートルハードル)、投力(砲丸投、円盤投、やり投)、跳躍力(走幅跳、走高跳、棒高跳)のバランスが問われていて、どれか一つだけが強いだけでは勝てない競技特性だという。

「すべてにバランス良く力を発揮できる選手が強いです。今のトップ選手の体つきを見てもらえば分かりますが、みんなそれほど体が大きくないし、小さくもありません。今はスピードと技術力が高い選手が強い傾向にあります」

 ただ、その歴史をひも解くと、“黒い影”も見え隠れしていた時期もあったという。

「1980年代は東ドイツやロシアが強かった。ドーピングの使用が暗黙の了解で行われているような世界で、それらの国の選手は体つきが全然違いました」


 ただ、ドーピングに対する規制が強くなると、90年代には『トレーニング』や『技術の向上』といった本来取るべき方法で、選手のレベルが上がってきたという。

「米国での話をすると、カード会社の『VISA』が十種競技の選手をサポートするシステムを作りました。練習施設の提供や、コーチやトレーナーを個人につけるなど、金銭的サポートを行うようになったのです。このシステムが始まってから、全米選手権のトップ10の選手は、ほとんどがこの『VISA』のサポートを受けている選手となりました」


 このサポートはすでに終わっているが、このシステムの恩恵を受けた選手たちがコーチとなり、現在のトップ選手の指導を行っているのだという。

「現在、世界記録を保持しているアシュトン・イートン(米国)のコーチもこのシステムで育った選手です。このように競技の普及活動が行われたこともあり、現在のトップ選手の多くは北米の選手が中心になっていますね」

 日本でもようやく右代啓祐(スズキ浜松AC)が8000点を超えるようになり、世界大会に登場するようになった。

「もちろん、右代選手も知っていますよ。彼には、もっとたくさんの競技会に参加してもらって、多くの経験を積んでほしいですね」


 競技を愛し、研究し、普及活動を務めるフランク氏。最後に、彼が描く夢を聞いてみた。

「十種競技の魅力を伝える映画を作りたいと思っています。そのために、私は記録家であり、歴史家であり、ルールを教える人になり、本当の意味での“エキスパート”になろうと思っているのです」

 そう言って瞳を輝かせた。


<了>


(文・尾柴広紀/スポーツナビ)

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