Aロッドの夏 我々は不名誉な歴史の目撃者

杉浦大介

今ではMLBの禁止薬物問題の代名詞的な存在に

A−ロッドを巡る“サーカスの日々”、我々は“不名誉な歴史”の目撃者になるだろう 【Getty Images】

「ステロイドの力を借りて作られたバリー・ボンズの記録を破り、MLBの通算本塁打レコードの価値を取り戻す男」
 まだクリーンだと信じられていた頃、ヤンキースのアレックス・ロドリゲスがそんな風に形容されていたのがもう遥か昔のことに思える。
 通算648本塁打、MVP3度のスラッガーが、1990年代以降のメジャーリーグを代表する選手であることは間違いない。しかしこの希代の風雲児は、今ではMLBの禁止薬物問題の代名詞的な存在であり、“歩くリアリティ番組”と評されるのが相応しいお騒がせ選手になってしまった。

 8月9日、ヤンキースタジアムでのヤンキース対タイガース戦――。昨年10月以来では初めてとなる地元ニューヨークでのゲームに臨んだA−ロッドに、全米の視線が注がれた。再びの薬物問題を経てフィールドに戻って来たスラッガーに、ヤンキースファンはいったいどう反応するのか……?
 1人の選手に歓声とブーイングのどちらが送られるかに、これほどの注目が集まるゲームは史上初めてだったかもしれない。長くヤンキースを取材して来たメディアも目を丸くするほどの、それはまるでサーカスだった。

NYでの復帰初戦、拍手とブーイングはほぼ均等

 マイアミの老化防止クリニック「バイオジェネシス」から禁止薬物の提供を受けていた問題で、8月5日、MLBは合計13選手に出場停止処分を言い渡した。リストにはネルソン・クルーズ(レンジャーズ)、ジョニー・ペラルタ(インディアンス)といった主力級も含まれる。すでに65試合のサスペンドを受けていたライアン・ブラウン(ブリュワーズ)に続き、13人中12人は50試合の出場停止処分を受け入れた。
 そんな中で唯一異議を申し立てたのが、薬物関係では史上最長の211戦の出場停止処分を受け、同じタイミングでケガから戦列復帰への準備が整ったロドリゲスだった。調停までの間は出場が可能。その規則ゆえ、A−ロッドはサスペンドと同時にメジャーの舞台に戻って来るという異常な展開となったのである。

「ファンの反応は圧倒的で、感情を内に秘めておくのが難しかった。過去14年間、(僕への反応は)常に複雑で、歓声かブーイングか、100%どちらかということはあり得なかった。とにかく、昨日のことは忘れることはないだろう」

 ニューヨークでの初戦後にロドリゲスが語った通り、地元では驚くほどに歓声も多く、選手紹介の際にはブーイングと拍手はほぼ均等に思えたくらい。
 ホーム、アウェーを問わず、キャリアを通じて常にブーイングも浴びて来た選手だけあって、雑音の中でもばつの悪さを感じている様子もない。異議申し立ての調停は今季終了後までずれ込むことが濃厚だけに、A−ロッドを巡る“サーカスの日々”はもうしばらく続きそうな気配である。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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