田中将大、進化の2013 データで探るその変化

ベースボール・タイムズ

絶対エース田中 気になる今季減の“ある”項目

開幕16連勝など、他を圧倒する活躍ぶりを見せる田中将大 【写真は共同】

 かつてのように気合いを全面に押し出すような姿は少なくなった。しかしながら、堂々たる様子で、まるで仁王像のような風格を漂わせる様からは、心身の充実と、たしかな自信が見て取れる。2013年、プロ野球記録となる開幕16連勝を飾った田中将大。昨季までも抜群の成績を残してきた東北楽天のエースは、今季、神懸かったかのように他を圧倒している。彼のピッチングは昨季までと一体なにが変わったのか、過去の成績と見比べて探ってみたい。

 ここまで19試合に登板した田中。すでに規定投球回を超える150回を投げている。1試合平均の投球回数は7.89回で、これは田中にとっては歴代2番目の数字だ。また、今季規定投球回に到達している投手の中で、堂々のトップ(8月12日現在)。先発投手として誇るべき数字である。そんな、今季も多くの投球を重ねている中で、例年に比べて非常に数が少ないものがある。“奪三振”の数だ。
 昨季は173回を投げ、169奪三振と、1イニング1個に近いペースで三振を記録した田中だが、今季は150回を投げ120奪三振。1イニング辺りの奪三振の数は0.8個で、これは田中のキャリアの中で2番目に少ないペースである。田中は打ち取るタイプへのモデルチェンジを図っているのだろうか。

増えたツーシーム 攻略がさらに困難な投手に

 ここで、一昨年からの彼の球種別投球割合を探ってみると、割合が顕著に減ってきている球種があった。それはストレート(11年:36%→12年:33%→13年:32%)。ちなみに割合の多かった11年は226回3分の1を投げ、241奪三振を記録した年である。
 この年を境に、今度は別の球種の割合が増えた。小さい変化でバットの芯を外し“打ち取る”球種、ツーシームだ。11年にも全体の13%を投じていたが、12年には17%と割合を増やし、今季も同じく17%を投げている。これだけ見ると、1試合に平均100球を投じるとすれば、わずか4球ほどの差しかないのだが、さらにこの数字をひも解くと大きな差が見えてきた。

 投球全体ではなく、カウント状況でのツーシームの割合を見てみると、11年は0ストライク、1ストライク時に投じたのがともに17%だったのに対し、12年は同22%、21%、13年は23%、22%と、11年時に比べて5%以上、多く投じているのだ。田中にはスライダーとフォークボールという、彼の代名詞ともいえる素晴らしいウイニングショットがある。追い込まれたら打つのは難しいと打者も早いカウントからバットを出してくるはず。そんな打者をまるで手玉に取るかのように、早いカウントでも打ち取る球種を投じている。考えただけでも、攻略するのが非常に困難だ。

 また、今季さらに三振の数を減らしている要因として挙げられるのがフォークボールの使い方である。一般的には追い込んでから“決め球”として投じるこの球種を、今季の田中は早いカウントから投じるようになった(12年:0ストライク時5%、1ストライク時11%→13年:0ストライク時7%、1ストライク時18%)。同球種を仕掛けの早い打者に対し早めに使うことで、さらに“打ち取る”確率を高めたのであろう。

「勝利のため」の投球 変化は“先”を見てのことなのか

 田中が打ち取るタイプへの変化をした背景には、田中がヒーローインタビュー等で度々口にする「野手の皆さんがよく守ってくれたので」という言葉にもあるとおり、野手への高い信頼があるのだろう。実際、楽天は新加入のマギーや、セカンドのレギュラーの座を勝ち取っている藤田一也など、守備力の高い選手がラインアップに並ぶことで、例年より守備力が上がった感ある。近年、「個人の記録よりチームの勝利」と常々語ってきた田中が、より勝利を追求した結果がいまの投球に繋がっているのだろう。

 また、下世話なところでいえば、球数を減らしたいという“先”を見た取り組みも勘繰ってしまうところではある。それでも、チームの勝利という一番の目標をこれ以上ない形で達成している田中に、誰も不満を感じることはないはずだ。
 実際その変化に対し、田中が先発した試合の援護点は平均5得点以上と野手も手厚い援護でエースを盛り立てている。勝利のためと口にする田中の投球は、紛れもなく、チームを浮上へと導いているのだ。

 今年でプロ7年目のシーズンを過ごしている田中。7年目といえば、現在メジャーリーグで活躍する、先輩でありライバルのダルビッシュ有が日本での最後のキャリアを過ごした年である。田中の頭にそれがないはずはないだろう。
 この時期になり、周りからも“次のステップ”についての声が増えるはずだ。でもきっと、田中はそんな雑音を耳にせず、突き進むだろう。チームが9年という歴史を経て、初めて栄光に手が届きそうないま、マウンドに上がるのと同様に、まっすぐ前だけを見て、役割をまっとうするはずだ。だからいまはただ、彼の素晴らしい投球を目に焼き付けておきたい。田中の変化は自身のためでなく、チームの栄光のために向いているのだから。

<了>

(データ提供:データスタジアム)
(文:ベースボール・タイムズ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント