加速違ったボルト、桐生らはリレーに期待=高野氏、朝原氏らが語る男子100m総括

構成:スポーツナビ

準決勝までは不安な走り方だったボルト(左)だが、雨中の決勝戦では実力を発揮し、見事1位と世界にその強さに示して見せた 【Getty Images】

 陸上の世界選手権第2日は11日、ロシアのモスクワで行われ、注目の男子100メートル決勝では、“世界最速の男”ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が9秒77で優勝、雨中でのレースでその強さを再び世界に示して見せた。
 期待された日本の山縣亮太(慶応大)、桐生祥秀(洛南高)はともに前日の予選で敗退。0秒01差に泣く形となった。

 スポーツナビでは、男子400メートルの日本記録保持者でもある東海大の高野進教授、北京五輪男子400メートルリレー銅メダリストの朝原宣治さん、スポーツライターの加藤康博さんの3人に、男子100メートルの総括を語ってもらった。

雨の中で9秒77はすごい記録(高野進)

 ボルト選手ですが、準決勝はこれまでで一番余裕がないように映りました。スタートが決まっていなかったのと、トップスピードに上がらないまま、ゴールに近付いて、慌てて抜いたという感じのレースでした。あれほど焦った姿をあまり見たことがなかったですね。今回は調子が上がっていないのかなと思いました。
 一方、ガトリン選手は非常に伸び伸び走っていて、今回はのっているなという印象を受けたので、準決勝の時点ではあわやボルト選手が負ける瞬間を見られるかもしれないと思いました。
 しかし、やはり準決勝と決勝でボルト選手の表情も違い、スタートからの加速感が違いましたね。(スタートから)出た時点でボルト選手の勝ちが見えました。ガトリン選手は相当勝ちを意識していて、興奮レベルが高かった。これは力むなと思ったら、ボルトに並ばれた瞬間、蛇ににらまれた蛙のように硬くなっていましたね。

 9秒77ですが、雨と向かい風の中では良いタイムです。彼は負けるという要素がないというか、理屈ではなく、本能的に負けないというスイッチが入った時は本当に負けない。一歩、一歩力が蘇っていく印象を受けたレースでした。

 今回、世界記録の更新はなりませんでしたが、雨の中で9秒77というのは普通の選手にとっては大記録です。ボルト選手なんで9秒6台を出さないとすごいと思われないのは悲しいですね。恐らく200メートルで記録を出すと言っているので、加速過程においてかみ合わない感覚が彼の中にあって、200メートルにイメージをシフトしているのだと思います。記録を出すと言ったら出す男なので、期待したいですね。

 日本人選手についてですが、桐生選手はインターハイと世界陸上を連戦しましたが、これは普通では考えられない調整です。今後は違う組み合わせで臨んでほしいと思います。インターハイでは桐生選手にとって、格下の中での戦いですが、世界陸上は逆に格上の中でのレースです。山縣選手にも言えることですが、世界の準決勝で争うようなメンバーと、ヨーロッパや米国を転戦する中で戦い、勝ったり負けたりして、スタートラインに並んだ時に「今日は勝てるかもしれない」と思えるレース経験をもっとしないといけないと思います。条件の整った日本の高速トラックで記録を出すことはできても、今回のような環境の中で、10秒00を出した中国の張培萌選手のようなレースができるようにならないとホンモノにはならないと思います。100メートルの中でガチで走っている中、ライバル選手と並んだ時に、自分の方が1歩前に出られると思うかで、力の入れ方が変わってきます。繊細な部分ではありますが、この部分を鍛え上げていくことが必要です。当然いまよりも力をつけていかないといけませんし、技術レベルも上げていかないといけないですが、最終的には世界の中で自分の「格」をどこまで上げていくことができるかがカギになると思います。

 山縣選手はロンドン五輪で10秒0台を出して準決勝進出を決めましたが、その時は欲がない中でのこと。今回は欲を持って、意識して勝ちにいった。勝ちにいって勝てるのと、思いっきりやったら結果が出たでは意味が違います。ボルトのように大舞台で力を出せるためにはまだまだいろいろなトレーニング・学習をする必要があります。

 日本選手たちはまだ400メートルリレーがあります。まず気持ちを切り替えて、自分たちが戦える気持ちになれればいいと思います。山縣選手のけがなどで不安が連鎖するようなことがあってはいけません。若いチームなのでなおさらです。決して今回のチームは北京のリレーメンバーと比べてもそん色ない、もしくはそれ以上なので、動揺や焦りだけを心配しています。チームでしっかり気持ちをつくって、スタートに立ってほしいと思います。

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