宇賀地、世界と戦うためにマラソンへ――=世界陸上・男子1万メートル

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厳しい暑さの中、粘りを見せて力走

世界陸上・男子1万メートルで15位の宇賀地。世界と勝負するべく、マラソン転向も視野に入れる 【Getty Images】

「これしかないと思っていたので、そういうレースができました」

 現地時間10日に行われた陸上の世界選手権(モスクワ)男子1万メートル決勝終了後、宇賀地強(コニカミノルタ)はやりきった表情でこう答えた。

 18時55分に開始したレースだが、モスクワの日はまだ高く、気温も「思ったよりも高かった」(宇賀地)と、選手にとっては厳しい条件だった。その中で、宇賀地は序盤から集団の中盤に位置付け、大迫傑(早稲田大)とともに無理に前に出ることなく、海外勢のペースに合わせて行く。一方、日本のエース格である佐藤悠基(日清食品グループ)は、一時、5番手につける積極性を見せるが、3000メートルを過ぎたあたりで順位を落としていき、最終的に6000メートル付近でリタイアすることになった。

 7000メートル付近で今度は大迫も集団から落ち始め、唯一、前の集団に食らいついたのは宇賀地のみ。その宇賀地も8000メートルあたりで先頭のペースについて行けず、それでもなんとか粘り切って27分50秒79の15位に入った。
「ずっと磯松(大輔)監督とは、上げ下げの対応をテーマにやってきた。多少、結果としてできたと思えたので、世界のレースで戦えたのかなと思う」

トラックでの限界を痛感 マラソンへのシフトも

 しかし、レースプランがうまくはまったとはいえ、15位という結果。8位入賞の選手とは20秒以上、優勝した英国のモハメド・ファラーとは、30秒近い差があった。
「客観的に見たら、どうみても差はまだまだ大きかった。しっかりともう一度、原点から作り直していかないといけない」と、宇賀地も世界と戦うための基盤を作り直すと語っている。

『世界と戦う』という言葉の中には、『1万メートルで戦う』という意味だけではなく、より距離の長い『マラソン』も含まれている。
「今日の結果から見てもトラックで戦うというのは、なかなか口で言うほど簡単ではないと痛感した。ただ今日の女子マラソンを見ても、(世界と戦う)チャンスはあるのではないかと」

 くしくも、男子1万メートルのレースが始まる前に行われた女子マラソンでは、“トラックの女王”として君臨した福士加代子(ワコール)が悲願の銅メダルを獲得。トラックで慣らしたスピードが自慢の彼女が、気温30度を超える過酷な真夏のレースでメダルに輝いたことで、日本選手が世界と対等に戦う一番近い道が見えた部分もあった。
「やっぱり黒人選手もきつくなったら後半に離れていく。そういう部分で(自分は)精神的に強くなれたんじゃないかなと思う。粘りは自分自身の強みでもあると思うので、そこを鍛えていきたい」

「より可能性がある種目を選んでいかないと」

 ただ、すぐにマラソンに転向するというわけではない。もちろん、1万メートルでは現在の日本記録27分35秒09を破るという目標もある。
 また、世界の力を痛感した宇賀地にとって、基礎的な能力をより高める重要性も感じている。
「全体的に力が足りない。それは基礎の部分で、スタミナもスピードも共に。ただ、スピードに関しては難しいが、スタミナの部分は日本人だからつけやすいのかな、と」

 もともと作新学院高時代から駅伝の舞台で活躍し、駒澤大時代も4年間、箱根駅伝で“花の2区”を走ったロード向きの選手。多くの駅伝ファンが、宇賀地の粘りある走りに声援を送ったはずだ。
 現在はコニカミノルタに所属して4年目。夏のトラックシーズン以外では、駅伝やハーフマラソン、今年2月の東京マラソンでは30キロまでのペースメーカーを務めるなど、やはりロード系のレースに参加して、力を発揮している。

 マラソン転向についてはっきりと明言してはいないが、『世界と戦う』という内なる野望を持つ宇賀地。
「自分の年齢もあるので、より可能性がある種目を選んでいかないとと思っている。それを見極めてやっていきたいと思います」

 近い将来の世界選手権では、トラックではなく、ロードで世界と戦う宇賀地強が見られるかも知れない。

<了>

(文・尾柴広紀/スポーツナビ)
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