有森氏ら解説 福士、銅メダルの要因は?=世界陸上・女子マラソン総括

構成:スポーツナビ

気温が30度を超える過酷な条件の中、銅メダルを獲得した福士。その勝因になったものとは!? 【Getty Images】

 陸上の第14回世界選手権モスクワ大会が10日、大会初日を迎えた。最初の決勝種目となった女子マラソンでは、福士加代子(ワコール)が気温30度を超える過酷な条件の中、2時間27分45秒で3位に入り、今大会日本勢最初の銅メダルを獲得した。
 優勝は2011年の世界選手権テグ大会を制したエドナ・キプラガト(ケニア)。2時間25分44秒で走り、世界選手権の同種目初となる2連覇を達成した。

 そのほか、日本勢では木崎良子(ダイハツ)が2時間31分28秒で福士に次ぐ4位で入賞。野口みずき(シスメックス)は、33キロ過ぎで無念のリタイア。軽い熱中症と診断された。

 スポーツナビでは、92年のバルセロナ五輪で銀メダル、96年のアトランタ五輪で銅メダルを獲得した元女子マラソン選手の有森裕子さん、NPO法人ニッポンランナーズ理事長であり陸上競技・駅伝解説者の金哲彦さん、筑波大学体育学専攻で体力学などの研究をしている榎本靖士准教授の3人に、今回のレースを総括してもらった。

マラソン素人の気持ちが銅につながった(有森裕子)

 今日のレースは非常に良かったです。ロンドン五輪で結果が悪かった中で、今回の世界選手権は重要な位置付けでした。今回、結果が悪いと、今後に大きな影響があったと思うので、3人中1人がメダル、1人が入賞というのは大きかったです。2人とも自分の持っている力を出し切ったと思いますし、自分たちの望む結果を出せたというのは今後に大きくつながると思います。

 福士選手ですが、非常に冷静でしたし、30キロ手前で力が落ちましたがそれから持ち直し粘りの走りで、良いフォームで走れていました。1本1本マラソンを走っていく中で、進歩が見られています。もともと持っている力はトップレベルなので、良さが出たと思います。
 スタートで前の方に位置すれば、序盤から前に出るというレースをしたかもしれませんが、状況としてスタートが後ろだったことが幸いしたこと、世界選手権のマラソン代表が初めてだという、良い意味で経験の無さが抑えさせたのだと思います。自分はマラソンとして『ある意味素人だ』という控え目な気持ちが、スタートで後方のポジションをとらせ、焦らずに自分のペースで最後まで通せさせた。これが大きかったと思います。
 また、野口選手が精神的な支えになったと思います。直前合宿で野口選手といっしょに過ごしたことで、競技に向かう上での生活などで勉強になったと思いますし、さまざまな面で野口選手の影響は大きかったと思います。

 コンディションについては、楽ではなかったと思いますが、練習を積んでいたはずですので、みんなが同じ状況の中、特別にマイナスに働いたことはなかったでしょう。

 野口選手ですが、状況をはっきり把握している訳ではないですが、脱水症状だと思いますよ。両足をたたいたということは、しびれているのだと思います。しびれが出ないと両足をたたくということはしないので。暑さによる消耗から両足にしびれが出たのではないかと私は思うのですが。野口選手は前半の入りで飛ばし過ぎましたね。久しぶりの世界大会という気持ちの高揚が抑えきれなかったように思います。その部分だけが野口選手の懸念でした。もし彼女が1人、結果が違うとしたら、気持ちの高揚の抑えができず、それがマイナスに働くと思っていたので、前半の走りを見て心配でした。

 木崎選手ですが、粘りの走りが一番の持ち味なので、彼女の持ち味は全部出せたのではないでしょうか。しかし、持ち味を出せた彼女にとって、いまの世界の立ち位置が今回の結果の位置だと思うのです。これからまだ磨きをかける必要があり、まだまだ成長する可能性を持つ選手だと思います。

 日本の女子マラソンにとって、今回の福士選手の活躍は非常に大きいです。今回、ほかの種目よりも世界選手権での結果が大事になる種目のひとつだったと思います。五輪後の挽回、リスタートとしてはこれを良いきっかけにして、女子マラソンが立ち上がることができるレースだったと思います。
 ただ、私の本心から言えば、今回の代表3人の世代に続く、下の世代に出てきてほしいと思っています。安易に今回結果が出たので、『日本女子マラソンは大丈夫』というものではないと思います。今後の育成、底上げが大事だと思います。

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