これぞ“高校野球の名勝負”=仙台育英×浦和学院の死闘

楊順行

決着は9回二死走者なしから

仙台育英vs.浦和学院の死闘には高校野球のドラマが凝縮された“名勝負”だった 【写真は共同】

「回してくれよ、オレが返すから!」
 ネクストから声をかけた小野寺俊之介が、本当にレフト前ヒットでつないでくれた。1打席目にヒットを打てれば、乗るほうだ。仙台育英の1番打者・熊谷敬宥は、自分で「今日は打てる」と思い込み、その通りここまで4打数3安打2打点。ファウルで3球粘るうちに、急きょリリーフした山口瑠偉のタマもよく見え始めた。ボールを3つ選んで、カウントは3ボール2ストライク。二死だから、一塁走者の小野寺は自動的にスタートを切る。外野を抜ければサヨナラだ。
 山口の7球目、高めのストレート。熊谷が強くたたいた打球は、レフトの右を抜けてフェンスまで達した。一塁から、小野寺がイッキにホームに滑り込む。名勝負は、9回二死走者なしから仙台育英がサヨナラで決着をつけた。

浦和・小島の変調、これはもう異常事態である

 センバツで優勝し、エース・小島和哉が完全試合を達成するなどして埼玉県大会を勝ち抜いた浦和学院。対するは、ドラフト上位間違いなしの好打者・上林誠知を擁し、センバツ8強の仙台育英。1回戦屈指の好カードに、甲子園には4万2000の観衆が詰めかけた。だが立ち上がり、県大会6試合でわずか3失点と、抜群の安定感を誇る浦和・小島がどこかおかしい。ストレートはうわずり、変化球は抜ける。チームは1回表に1点を先制したものの、その裏、3安打と5四死球に2つの暴投もからめ、大量6失点。優勝したセンバツでは、5試合でわずか3失点だから、これはもう異常事態である。

 ただ、浦和打線の振りの鋭さは尋常じゃない。打球音が違う。3回には打者13人、二塁打4本を含む7安打の猛攻で8点のビッグイニング。5点差をいとも簡単にひっくり返すと、小島も2回から5回は持ち前の伸びのあるストレートを取り戻し、育英打線を0に封じた。それでも6回、育英打線は、4安打に相手失策もからめ、同点に追いつく。10対10。固唾をのむ投手戦ではないが、リング中央で足を止めて打ち合うような白熱だ。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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