38歳・室伏広治が一流であり続ける理由=「チーム・コウジ」咲花正弥インタビュー

構成:スポーツナビ

室伏広治が長く世界のトップに君臨できるのはなぜ?室伏のフィジカルトレーナー・咲花正弥氏にその理由を聞いた 【Getty Images】

 室伏広治(ミズノ)は38歳にしてなお、男子ハンマー投げで世界のトップに君臨し続けている。2004年アテネ五輪で、投てき種目では日本人初となる金メダルを獲得。08年の北京五輪は5位に沈むも、11年の世界選手権テグ大会で優勝、12年のロンドン五輪では銅メダルに輝いた。そして今年6月、日本選手権で19連覇の偉業を達成。8月10日に開幕する世界選手権モスクワ大会で再び世界の舞台に立つ。

 体力の衰えもある中、38歳という年齢で世界の第一線で競技を続けることは異例と言ってもいい。室伏がアスリートとしても、そしてスポーツ界の一員としても一流でいられる要因はどこにあるのだろうか? 室伏の長い現役生活を支えるプロジェクト「チーム・コウジ」の一員で、サッカー米国代表のフィジカルトレーナーも務める咲花正弥氏に話を聞いた。

トレーナーを驚かせた室伏の探究心・向上心

――「チーム・コウジ」に参加するまでの経緯を教えてください。

 室伏選手と知り合ったのは、09年に私が所属しているアスリート専門のトレーニング・センターである「Athletes’ Performance」に彼がやって来たことがきっかけでした。当初は投てき専門のコーチの下で、投てきに特化したトレーニングをしていた彼は、徐々に「Athletes’ Performance」自体のトレーニング理論や、システムに興味を持ち始め、その特化したトレーニングから、体の基本機能やけが予防、リハビリといったより基礎的なトレーニングをしたいと申し出てきました。そこで実際に彼を指導する機会を与えられ、そこから「チーム・コウジ」の一員として彼をサポートするようになりました。

――「チーム・コウジ」加入時の室伏選手の印象は? 

 もちろん彼の功績についてはよく知っていましたが、知り合った時点では、どんな人物なのかは全く知りませんでした。しかし、実際にトレーニングを指導したり、いろいろと相談にのるようになって、彼の投てきのみならず、スポーツ科学や人体に関する知識、そしてさまざまな分野についての探究心や向上心の深さと高さに驚きました。また、これまでの選手活動の中で培った独自のトレーニング方法やその理論など、科学的なアプローチと実際の経験をうまく織り交ぜていたことにも感心しました。

――その中で、ご自身の果たすべき役割は何だと考えられましたか?

 指導する立場の人間以上に深い知識や経験を持っていた彼に私ができることは、「基本に返る」ということや「総合的なアプローチ」を再確認してもらうという、非常にベーシックなことですね。

トレーニングを阻害するのは体の“慣れ”

――咲花先生はサッカーをはじめ幅広いスポーツ分野でトレーナーとして活躍されていますが、その中で、室伏選手のトレーニングに生かしたことがあれば教えてください。

 アスリートの練習やトレーニングというと、その競技動作に直結しうることをひたすら反復する、負荷と強度を上げてパフォーマンスを向上させる、という方向にいきがちです。もちろん、これらはアスリートとして成功するためには非常に大事なことではありますが、それに集中しすぎることで、基本的な土台が損なわれてしまいます。さまざまなスポーツ選手を指導してきた中で、私もこういった選手を多く目にしました。

 室伏選手もその経験と探究心で、自分でできる最大限の努力をしてここまで成功してきたことは確かですが、“土台”とも言える体の柔軟性やモビリティー(可動性)、コア(体幹)の非常に重要な機能そのものがうまく働いていませんでした。そこで、それらを修正し、体の土台をつくるトレーニングを徹底的に行いました。

――独特のトレーニング方法を打ち出す、室伏選手のトレーニング哲学とはどのようなものでしょうか?

 室伏選手本人が持っているトレーニング哲学の根本にあるのが、「人間の体は非常によくできていて、トレーニングや練習で同じことを繰り返していると、すぐに体が慣れてきてしまう」ということです。その“慣れ”がトレーニング効果を阻害する大きな要因のひとつと考えています。重いものを持ち上げるにしても、そのグリップの太さや握り方、重心の位置、重りが規則的な動きをする、または予想できない不規則な動きをする――そういったものに変化を与えることで、体は新しい、または予測できない動きへの対応をしなくてはいけません。その刺激が非常に大切と考えています。

――世界選手権、五輪といった大舞台で成功を収める秘けつは?

 綿密な計画と、その計画の調整を、専門分野のエキスパートの意見を取り入れながらやっていくことではないでしょうか。本人のこれまでの経験に基づく考え方や、感覚というものも大切にしながら、さまざまな意見も吟味して、ひとつひとつ計画したり、問題解決を図ったりしていくことが成功への秘けつだと思います。

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