人知れず獲得したろう者五輪の銀メダル=音がない世界のバレーの難しさ

中村和彦

デフリンピックとは

デフリンピックで銀メダルを獲得した女子日本代表 【中村和彦】

 7月26日より8月4日まで、ブルガリアの首都ソフィアで開催された第22回夏季デフリンピックの女子バレー競技において、デフバレー女子日本代表チームが銀メダルを獲得した。

 デフとは、聾(ろう)、聴覚障害を意味する言葉であり、デフリンピックとは、ろう者の五輪である。デフリンピックの歴史は古く、前身の「国際ろう者競技大会」は1924年にパリで開催され、五輪同様、原則として4年ごとに開催されてきた。その後「世界ろう者競技大会」に名称を変更、01年のローマ大会よりIOC(国際オリンピック委員会)の承認を得てデフリンピックという名称になった。

 デフリンピックの参加資格は、裸耳状態(補聴器をつけない状態)での聴力レベルが55dB(デシベル)以上の者となっており、プレー中の補聴器の装用は禁止されている。dBとは音の大きさや聴力レベルを指し示す単位であり、数字が大きくなるほど聞こえにくい。通常の会話は50〜60dBほどであり、55dBとは、意味はわからないがかすかに人の声が聞こえる聴力レベルということになる。

 日本選手団全体では70dB以上の人が多く(身体障害者手帳を取得できる基準が70dB以上であるということも関係している)、120〜130dBなど重度の選手も少なくない。120dBとは米軍基地の脇で戦闘機の轟音(ごうおん)が線香花火程度に聞こえるという状態だ。そういった重度の選手などは補聴器を付けても騒音のようにしか聞こえず、普段からほとんど補聴器を使用しない者もいる。一方、補聴器活用により、ある程度聞こえるようになる者も多い。しかし大会に参加する全ての選手は規定により補聴器を外さなくてはならず、バレー競技においても聴者(聞こえる人)とプレーしてきた者にとってはかなりの違和感があったという。

情報として音がなくなることの意味

 デフバレーと聴者のバレーのルールはまったく同じだ。しかし、補聴器を外すということは、多くの選手にとってコート上から情報として、声や音がほぼなくなってしまうということである。審判のホイッスルが聞こえないで、プレーがそのまま続けられることも多い。

 バレーにおいての声の重要性は、言うまでもない。聴者であればコンビネーションプレーの際に声でコミュニケーションを図ることも多いが、声での連携がとれないデフバレーにおいては互いが目と目を合わせアイコンタクトし、事前にサインを確認しておかなかければならない。「切り替え」などのメンタル面での掛け声も手話で表す。手話は見なければ伝わらないため、仮にミスをしたとしても顔を上げて周りを見なければならない。またデフバレーでは音を判断材料にすることもできない。例えば相手のスパイクをブロックした際にワンタッチがあったのかなかったのか? 聴者の場合、微妙な場合は音が重要な判断要素となる。それによって、アウトするボールには手を出さないなどの判断ができる。しかしデフバレーには、ワンタッチの音は存在しない。あるいは床面ぎりぎりで拾えたのか拾えなかったのか? その場合も音で聞き分けることはできない。

1/2ページ

著者プロフィール

福岡県出身。大学在学中より助監督として映画の世界に入る。主な監督作に「棒 Bastoni」(2001年)、「日本代表激闘録AFCアジアカップ カタール2011」(2011年)をはじめとするサッカー関連DVDなど多数。知的障害者サッカー日本代表を追った長編ドキュメンタリー「プライド in ブルー」(2007年)で文化庁映画賞優秀賞受賞。ろう者サッカー女子日本代表を追った「アイ・コンタクト」(2010年)では、山路ふみ子映画福祉賞を受賞。著書に「アイ・コンタクト」(2012年岩波書店刊)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント