甲子園でエースは連投すべきなのか?=“経験者”土肥義弘が語る

構成:スポーツナビ

日本はフォーム、米はトレーニングを重視 良い面を合わせればベスト

現在、インディアンス傘下の3Aコロンバスで投げる松坂大輔 【写真:アフロ】

――センバツでは済美の安楽智大投手が9日間、5試合で772球を投げ、アメリカでも話題になりましたが?

 先ほども話したようにフォームとトレーニングができているのが前提ですが、安楽投手はテレビで見ていても自分に合ったフォームで投げられていると思います。良い状態を体に覚え込ませて投げていれば、100球でも150球でも同じ感覚、もしくは投げているほどに余計な力が抜けて、キレのあるボールを投げられると思います。

 僕はアメリカの独立リーグでも投げて、先月はコーチにも行きましたが、アメリカは無理をさせない考え方なので、投げ過ぎを「クレイジー」と言うのも分かります。彼らはアマチュアではほとんどフォームは教えずに、トレーニングを重視しています。
 これは文化の違いで、アメリカはまずトレーニングで体をつくる。ここでも単純なパワートレーニングではなく、ファンクショナルトレーニング(体の機能を向上させる動き)も盛んです。ここはアメリカのすごく良い部分なんですが、一方でフォームをしっかり教えていないのでケガも増えています。

「日本は投げ過ぎだから肩を悪くする」と言いますが、肩の手術をする投手はアメリカの方が多いです。彼らは肩は消耗品で、限界が来たら手術するものと考えているので、日本に比べて手術への抵抗感がありません。
 その投手に合ったフォームで投げられていれば自然と負担は軽くなるので、日本とアメリカの良い面を合わせていければベストだと思います。

――甲子園での投げ過ぎは将来のケガに影響しますか? 松坂大輔投手(インディアンス・マイナー)は高校時代にかなりの球数を投げ、いま苦しんでいますが?

 西武で一緒にやっていましたが、大輔について言えば、プロに入ってからもかなり投げていました。それは試合だけではなく、ガンガン投げた翌日の練習でも強いキャッチボールをしていて、それができてしまった。僕らはそんな投手を見たのが初めてだったので、驚いて見ていましたが、その時期にもっと視野を広げて、ブレーキをかけていたら良かったのかな、と思います。やはりプロは過酷で、蓄積疲労も高校の時以上にたまりますから。

 ただ、高校時代の投げ過ぎが原因かと言うと、そうは思いません。高校時代は本当に理にかなったきれいなフォームをしていて、だからこそあれだけ高いレベルで投げられたのだと思います。どちらかと言うと故障の原因はプロに入ってからの調整法とメジャーに行ってフォームが変わったことだと感じています。

「球数制限」よりも日程の工夫を

――甲子園に「球数制限」を導入すべきでしょうか?

 球数制限よりも日程のタイトさが気になります。大会全体を一週間長くするだけでも、選手の負担は軽くなります。もちろん、阪神のホームでありますし、大会を長くするのはさまざまな事情があって大変だと思いますが、ベストパフォーマンスを出せるように考えることが大切と思います。地方大会ももっと前から開催できるのなら、そうしてほしいです。

 WBCでは球数制限が導入されましたが、やはり本来の野球の理念からはズレていると思います。球数を単純に減らすよりも、日程などを変更したり、正しいフォームやトレーニングを広めることの方が重要なのではないでしょうか。

――今年の夏の甲子園に挑む投手たちにメッセージは?

 何よりもチームが勝つことが第一ですから、準備してきたことをしっかり出してほしいと思います。
 また、僕らのころに比べて監督とコミュニケーションを取りやすくなっていると思うので、違和感がある時には伝える勇気を。監督は引かせる勇気を。

 正しいフォームとトレーニング、そして自身の体の状態を冷静に判断できれば、この期間は一気に伸びるので、リミットをつくらずに可能性を広げてほしい。マラソンの川内優輝(埼玉県庁)もしっかり準備をして、体の状態を保っているので、短いレース間隔でも体力が戻り、記録を伸ばせているのだと思います。高校球児にも甲子園をさらなる成長の機会としてもらいたいです。

<了>

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