入江陵介へ、引き際を考えるのは早すぎる=世界水泳バルセロナ2013

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あふれ出る涙を抑えることができず

男子200メートル平泳ぎで入江(右)は4位、萩野(左)は5位 【写真は共同】

「ずっと金メダルを期待されてきて、それに応えられない自分の弱さをひしひしと感じていた。チームの中でも金メダルを期待してもらっているけど、終わってみれば『金メダルを取れないのか』という雰囲気を感じることも多くて……。この1年『引退』という2文字をずっと頭に持ちながらやってきた。正直いまは何も考えらない」

 レース後、入江陵介(イトマン東進)はあふれ出る涙を抑えることができなかった。8月2日の世界選手権・男子200メートル背泳ぎ決勝。入江は1分55秒07のタイムで4位に終わり、メダル獲得には至らなかった。序盤から積極的に仕掛けた入江は前半の100メートルを56秒66の3位で折り返す。「きっと後半の勝負になってくると思ったので、自分の持ち味をしっかり出せるように、落ち着いて最後に勝負を懸けられたらと思っていた」。だが、150メートル時点でタイラー・クラリー(米国)に逆転を許すと、その後は必死に追い上げたものの、最後まで届かなかった。

 昨年のロンドン五輪では、背泳ぎの100メートルで銅メダル、200メートルで銀メダル、400メートルメドレーリレーで銀メダルと実に3個のメダルを獲得。エースの名にふさわしい活躍を見せた。しかし、メダリストに向けられる期待の高さが、入江を徐々に苦しめていくことになる。「注目されることが多かったぶん、正直日本では少し肩身が狭い部分があった」という入江は、年末から約2カ月間、オーストラリアに渡り、トレーニングを積んでいた。

周囲から寄せられる過度の期待と若手の台頭

 今年4月の日本選手権では、100メートルで個人メドレーを本職とする18歳・萩野公介(東洋大)の後塵(こうじん)を拝し、国内では約3年ぶりの敗戦を喫した。200メートルでは、史上初の6冠を狙う萩野に競り勝ち、意地を見せたものの、「水泳を好きになれていない自分がいる」と語るなど、メンタル面に問題があることをのぞかせていた。入江は当時をこう振り返る。

「100パーセントではない状態だったし、なんとなく孤独も感じていた。いろいろな悩みも抱えていて、どんどん自分を追い込んでしまい、なかなか『さあ、勝つぞ!』という気持ちになれなくて……。『とりあえず早くこの試合は終わらせたい』という気持ちが先走ってしまい、集中しきれていなかった」

 周囲から寄せられる過度の期待と若手の台頭。「ため込んでしまい、自分のキャパシティーをオーバーしてしまうタイプ」だと自認する入江は、なかなかその状況に折り合いをつけることができなかったのだろう。以前、こんな話をしてくれたことがある。

「同じ悩みを抱えている人はいない。もちろん相談したりはするけど、人の気持ちを完全に理解できるということはない。人の気持ちを理解できるというのは、結果として上から見ちゃっている。100人いたら100人が同じ悩みを抱えていることはないし、解決策は自分で見つけるしかない。僕はそういう考えを持っている」

 入江が置かれている環境は、普通の人とは大きく異なる。この状況を理解し、適切なアドバイスができる人はほとんどいなかった。だからこそ孤独を感じていたのだろう。

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