横浜唯一の3年レギュラー・長谷川の涙が物語る想い「打倒・松井」で神奈川の頂点に立つ

大利実

「打倒・松井!」を合言葉に

「松井くんがいたおかげで、うちを含めて、全チームのレベルアップにつながった」と渡辺監督が話す通り、投打にレベルアップした横浜高が2年ぶりに神奈川大会を制した 【写真は共同】

「松井くんに感謝したい。神奈川に松井くんがいたおかげで、うちを含めて、全チームのレベルアップにつながったと思います」
 準々決勝で桐光学園高を3対2で破ったあとの横浜高・渡辺元智監督のコメントである。昨夏、今春と2連敗を喫していた松井裕樹に対して、感謝の言葉を述べた。

「打倒・松井!」
 これが、横浜のチーム全員の合言葉だった。今春、0対3で完敗を喫した日の新聞を寮の目立つところに貼り、悔しさを忘れないようにした。春の敗戦以降は、ピッチングマシンを150キロ近くに設定し、マウンドからの距離を5メートルほど前に出し12〜13メートルの距離から打つ練習を繰り返した。松井の武器であるスライダーに対しては、バッターボックスの前で打つ練習と、後ろで見極める練習で、目慣れに取り組んだ。
「以前もやっていた練習ですが、春に負けてからは毎日やりました。おかげで速い球には目が慣れて、スライダーの軌道にも慣れました」とは、1番を打つ川口凌の言葉だ。

松井攻略のための試行錯誤が実った準々決勝

「打倒・松井!」に燃えた横浜高の前に、準々決勝で敗れ涙した桐光学園・松井 【写真は共同】

 準々決勝の桐光学園高戦、この川口が先頭打者として甘いスライダーを見事にとらえ、左中間への二塁打。これまで松井との2度の対決では、初回はいずれも3者三振に抑えられていただけに、「今年はいける」という雰囲気が横浜ベンチにも漂った。
 そして、4回には高濱祐仁がセンターバックスクリーンに同点ソロ。7回裏には浅間大基がライトオーバーの逆転2ランを放った。
 この日、唯一の3安打をマークしたのが6番の松崎健造だ。春に比べると、トップをはやくつくり、無駄なく振り出す打ち方に変えていた。ホームランを打った高濱もそうだ。以前はトップからヒッチするクセ(編集部注:バットをトップから一度下げて振り出すこと)があったが、それが改善されていた。

「松井投手のストレートを打つために、トップから1・2で打つ練習を繰り返してきました。そのために、トップを早くつくる。速いストレートを打っていく中で、トップからの無駄な動きもなくなってきたと思います」(松崎)

 松井を打つためにどうすればいいか。日々練習を繰り返す中で、松井攻略のためのバッティングがつくられていった。
 桐光学園高を破った直後のベンチ裏では、キャプテンの長谷川寛之が涙を流し喜んでいた。川口と泣きながら抱き合うシーンもあり、それだけ「打倒・松井」にかけていた想いの強さを感じ取ることができた。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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