バースト事件を生んだピレリタイヤの真相=王者レッドブルのF1後半戦での死角とは

田口浩次

後半戦もレッドブルに有利な展開か

レッドブルの懸念はウエバー(左)の引退。内的要素がチームメートのベッテルのレース展開に影響を及ぼすかもしれない 【Getty Images】

 イギリスGPを迎える前から、今年のタイヤには問題の予兆があった。走行中に突然トレッド面のタイヤコンパウンドが剥離する“デラミネーション”と呼ばれる症状が多発。しかし、これはチームがタイヤの内圧を低くし過ぎたりする指定ルールを守らない説と、ピレリの製造工程に問題があり個体差が大きいのではないか、という説が流れていた。イギリスGPでのタイヤバースト問題を受けて、ピレリが調査した結果、問題のほとんどは左右を勝手に入れ替えたことが原因と発表したのだ。その後、各チームがピレリの指定を守り、ピレリも構造部分の素材を一部変更したドイツGPとハンガリーGPでは問題は発生していない。

 8月23日から始まる後半戦最初となる第11戦ベルギーGP。各チームの競争力がどのように変化するかは予想もつかないところだが、タイヤを理解し、そのタイヤの性能を最大限に引き出す、あえてドライバーが全開にすることがないレーススタイルは大きく変わらないだろう。結果、マシンにストレスがかかることが減り、各車の完走率は高まるが、それは同時にレッドブルにとって有利なことでもある。

 もともとレッドブルは天才デザイナー、エイドリアン・ニューウェイのマシンでライバルに対して大きなアドバンテージを持つ。ニューウェイデザインのマシンが唯一問題視されていたのが、あまりにもエアロダイナミクスを追求するあまり、車体の信頼性が低くなる傾向があったことだ。しかし、エンジンの最大回転数が規制され、エンジンとギヤボックスの交換回数が規制され、さらにはタイヤの性能をあえて落とすことによって、マシンにかかる負荷は小さくなった。こうしたコスト削減とエンターテインメント性を高める改革が、レッドブルとベッテルの追い風となり3連覇につながった。

懸念事項はウエバー引退による内的要素

 果たして後半戦のレッドブルに死角はないのか? じつはひとつだけ懸念すべきことがある。それはベッテルのチームメート、マーク・ウエバー(レッドブル)の引退だ。来年、ポルシェに移籍してFIA世界耐久選手権(WEC)への挑戦を明らかにしたウエバー。彼のF1経歴は現在9勝。あと1勝で2桁勝利ドライバーとなる。そして、今年のマレーシアGPで、ウエバーとベッテルはチームから無線でウエバーがリードを保ったままクルーズしてチェッカー受ける指示を受けた。しかし、ベッテルは指示を無視してウエバーを抜き去り、勝利を奪い取った。
 
 レース後、ウエバーが「マルチ21」とベッテルにチーム指示の隠語を吐き捨てたシーンはテレビを通じて世界中に放送されており、ご覧になった方も大勢いるだろう。すでに引退を発表したウエバーからすれば、もし自分がレースをリードする展開となった場合、例えチームがベッテルの先行を指示しても、それを無視する可能性は否定できない。

 つまり、ライバル3チームのマシン開発が進む外的要素と、レッドブルのチームメート問題という内的要素が微妙に絡み合ったとき、2013年F1シーズンの後半戦は、さらにドラマチックな展開を見せるかもしれない。

<了>

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