バースト事件を生んだピレリタイヤの真相=王者レッドブルのF1後半戦での死角とは
勝者の寡占化進むも、面白み増したシーズン
今シーズン最大の話題となったのはピレリタイヤだ。イギリスGPでのタイヤバースト事件は左右入れ替えによって引き起こされた 【Getty Images】
さて、前半戦を振り返ってみると、チャンピオンシップは4年連続王者を目指すセバスチャン・ベッテル(レッドブル)がトップに立ち、それをキミ・ライコネン(ロータス)、フェルナンド・アロンソ(フェラーリ)、そしてルイス・ハミルトン(メルセデス)が追う展開となっている。
昨年は前半戦最後の第11戦ハンガリーGPを終えた時点で7人の勝者が生まれ、しかも第7戦まで毎戦勝者が違うという波乱のシーズンだった。それと比べると、今年は勝てるポテンシャルを持つチームはレッドブル、フェラーリ、ロータス、メルセデスの4チームに限られている。事実、ランキング8位までを、この4チーム8名のドライバーが占拠している状態だ。
そのなかでもベッテルはすでに4勝を飾り、マシンの速さも総合的に一歩抜きんでている。予選こそメルセデスが速さを発揮しているものの、モナコやハンガリーといったハイダウンフォースサーキット以外では、レッドブルのレースペースに追いついていないし、フェラーリとロータスはレースペースこそ悪くはないが、予選はメルセデスとレッドブルの後塵(こうじん)を拝していて、レース戦略の幅が狭まっている。ライバル3チームが今後、レッドブルを上回る開発スピードを見せなければ、シーズン後半はベッテルの独走を許す可能性もある。そんな勝者の寡占化(かせんか)が進んだシーズンだが、レース内容自体は昨年よりも面白いという声がある。その一因にして、今シーズン最大の話題となっているのがピレリタイヤだ。
イギリスGPでのタイヤバースト事件の要因
その一方で、ソフト側とハード側のタイム差が大きいことや、ピレリのタイヤは品質が安定していないというチームの不満も生んできた。それを12年には改善し、ソフト側とハード側のタイヤのタイム差を縮小させた。当初はタイヤ情報を理解していないチームのピット戦略が分散されたことで、シーズンに8人の勝者を生む要因となったが、シーズン後半にはタイヤ情報をほぼ把握されて、エンターテインメント性は弱くなった。そして今年は、チームのタイヤ情報をリセットさせるべく、再びタイヤのソフト側とハード側のタイム差を拡大し、ピットストップ回数を増やすことを計画。結果、ピレリはタイヤの構造部分とコンパウンドの両方を新設計してきた。
簡単に言えば、F1チームが頻繁に変更されるレギュレーションと呼ばれるルールの抜け穴を探してマシン開発を進めるのと同じで、タイヤ情報を把握したいチームと、それを良しとしないピレリとのイタチごっこが3年間続いてきたと言える。
しかし、今年はピレリにとって予想もつかない出来事があった。一般のタイヤには雨天時の排水性能を考慮して、タイヤの回転方向性が決まっていたり、タイヤに刻まれたトレッドパターン(溝の模様)が左右非対称で、右側用、左側用と、装着する位置まで決まっているタイヤがある。F1タイヤの場合は、前後こそタイヤサイズが違うので入れ替えることは不可能だが、左右に関しては、これまでとくに違いはなかった。しかし、13年用に開発したリアタイヤは、構造部分が左右非対称になっていて、見た目こそ左右を入れ替えても分からないのだが、じつはピレリは右側用、左側用と装着する場所を指定していた。
だが、レギュレーションにはタイヤを左右入れ替えることに違反規定はない。タイヤ構造を知ったチームは冬のテスト段階から、あえてピレリの指定通りに装着したタイヤのデータと、左右を逆に履き替えたタイヤのデータを収集。結果、左右を入れ替えた方がタイムは速いことが判明。これがイギリスGPで発生したタイヤバースト事件への口火となった。