豪州戦メンバー総入れ替えの真意とは=「チームB」がもたらしたうれしい誤算

宇都宮徹壱

総入れ替えは05年大会の再現か?

得点を決め、豊田(左)とハイタッチする齋藤。中国戦から総入れ替えとなったメンバーがピッチで躍動した 【写真:ロイター/アフロ】

 20日から韓国で開催中の東アジアカップは、ファソン(華城)に舞台を移して第2戦が行われる。この日は17時15分から女子の日本対北朝鮮、そして20時から男子の日本対オーストラリアのカードが組まれていた。ちょうど女子の試合が終わり(結果は0−0のドロー)、日本の佐々木則夫監督の会見が始まろうとするタイミングで、男子のメンバー表が配布された。一瞥(いちべつ)して、先の中国戦のメンバーがひとりとして残っていないことを知り、思わず目を剥(む)く。何と、メンバー総入れ替えである。

 この日のスタメンは以下のとおり。GK権田修一。DFは森脇良太、千葉和彦、鈴木大輔、徳永悠平。MFは守備的な位置に高橋秀人と扇原貴宏、右に齋藤学、左に山田大記、トップ下に大迫勇也。そして1トップに豊田陽平(なおセンターバックの千葉と鈴木は、試合が始まってすぐにベンチの指示で左右が入れ替わっている)。ベテランの駒野友一と栗原勇蔵が外れ、最もキャップ数があるのは高橋の「6」。昨年、代表に初めて招集されて以来、ずっと試合終盤にならないと出番がなかった「80分台の男」が、この日は初スタメンで、しかもキャプテンマークを巻くこととなった。代表初キャップとなったのは5名で、鈴木と千葉というセンターバックコンビも含まれる。多少のメンバーの入れ替わりはあるとは思っていたが、ここまで大胆に変えてくるとは誰も想像できなかったはずだ。

「メンバー総入れ替え」で思い出されるのが、今から8年前の2005年に、同じく韓国で開催された東アジア選手権(当時)である。時の日本代表監督ジーコは、初戦の北朝鮮戦でチームがまったく良いところを見せられずに0−1で敗れたことを受けて、続く中国戦の前日会見でスタメン全員を入れ替えることを言明。その理由についてジーコは「初戦の試合内容を見て、選手に相当な疲労が残っていると判断した。レギュラー組に休養と調整する時間を与えたい」と説明していた。この結果、駒野、今野泰幸、巻誠一郎といった、のちのワールドカップ(W杯)メンバーが代表初キャップを刻むこととなったのである。

 今回のザッケローニの総入れ替えは、もちろんコンディション的な意味合いもないわけではないだろう。とはいえ、あれほどチームに「バランス」と「アイデンティティー」を求めてきた指揮官が、ここにきて信念を翻すのには何かほかにも理由があるはずだ。その点については、本稿の最後にあらためて考察することにしたい。

齋藤と大迫が初スタメンで初ゴール

 第1試合では「イギョラ(がんばれ)!」と大声援を送っていた北朝鮮のサポーターがさっさと帰ってしまい、スタンドには日本サポーターと、ごく少数のオージーサポーター、そして地元の物好きなサッカーファンしかいない、何とも閑散とした雰囲気の中でキックオフを迎えた。オーストラリアといえば、最近ではアジアカップ決勝にW杯最終予選と、常にテンションの高いゲームを戦ってきた好敵手であったが、今回のメンバーには当然ながらシュワルツァーもウィルクシャーもケーヒルも不在である。ゆえに、オーストラリアのユニホームを着ているものの、いつものすごみがまったく感じられない。スタメンは、第1戦の韓国戦とまったく同じメンバーだったが、日本より1日多く休養をとっていたにもかかわらず、動きが緩慢でまったくプレスをかけてこないので拍子抜けした。

 そんな相手に対して、日本は伸びやかなサッカーを披露する。時おり動きがかぶったり、あるいは味方の進路をふさいだり、いかにも急造チームらしいバタバタ感もあるにはあったが、それでも試合の入り方は上々であった。そして前半26分には待望の先制ゴールが生まれる。左MFの齋藤が得意のドリブルで中へ切れ込み、2人の相手DFをかわして右足シュートを放つ。弾道は山なりの軌跡を描き、韓国戦で好守を見せていたGKガレコビッチの必死のセーブも届かず、ゴールネットを揺らす。齋藤にとってこれがうれしい代表初ゴールとなった。前半37分には山田の左からのクロスに豊田が豪快なヘディングシュートで合わせるも、GKの真正面。前半44分には豊田の右からのクロスに、高橋が高い打点で反応するも、惜しくも枠を外れた。

 後半も、なかなか調子が上がらないオーストラリアを尻目に、日本の攻勢が続く。後半11分、後方からの鈴木のフィードを、右に流れていた豊田が中央にチョンとはたき、齋藤がスルー。受けた大迫がDF2人を引きずりながら、GKの動きをしっかり見て冷静に流し込んで追加点を挙げる。大迫も齋藤と同じく、これが代表初スタメンでの初ゴール。早くも日本サイドに楽勝ムードが醸成されてゆく。しかし、後半25分を過ぎたあたりから、オーストラリアに攻め込まれる時間帯が続き、あれよあれよという間に2失点。両ゴールに絡んだ、25番ニコルズの狭いスペースでの精度の高いプレーを褒めるべきだろうが、それ以上に鈴木と千葉の経験不足、そして連携不足が露わとなったシーンであった。

 しかしこの日は、そこで意気消沈する日本ではなかった。同点に追いつかれたわずか1分後の後半34分、途中出場の工藤壮人のパスを豊田が落とし、これを大迫がワントラップから素早く右足で低いミドルシュートを放ってゴール左に収める。再び日本が突き放すと、ベンチは千葉に代えて栗原を投入し、ディフェンスラインの安定化を図った。先の中国戦では、軽率なミスから2失点に絡んでしまった栗原だったが、この日は汚名返上とばかりに堅実なプレーを随所に見せて逃げ切りに貢献。3−2で勝利した日本は、グループ単独トップに躍り出ることになった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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