人生最大の挑戦に挑む新旧バルサ監督=欧州が認めるマルティーノとは

工藤拓

わずか2分で告げられた衝撃のニュース

ビラノバは、治療の継続が必要となり、監督業を断念せざるを得なくなった 【写真:ロイター/アフロ】

「決して伝えたくなかったニュースを伝えなければいけない」

 7月19日、ジョアン・ガンペール練習場の会見場。多数の報道陣に加え、リオネル・メッシやカルレス・プジョル、ジョルディ・ロウラ第2監督ら選手スタッフ一同が見守る中、アンドニ・スビサレッタSD(スポーツディレクター)と共に会見場に現れたサンドロ・ロセイ会長は険しい表情でそう切り出した。

「定期検診の結果、ティト・ビラノバは治療の継続が必要となり、並行してトップチームの監督を続けることが不可能になった。後任はジョセップ・マリア・バルトメウ副会長、スポーツディレクターのアンドニ・スビサレッタが数日内に、恐らく週明けには発表することになる」

 記者からの質問を一切受け付けなかったその会見は、わずか2分ほどで終わった。

指揮することなく幕を閉じた2年目のシーズン

 耳下腺(じかせん。唾液を作る臓器の一つで、おたふく風邪で腫れる部分)に腫瘍が発見され、ビラノバが緊急入院したのは2011年11月末のことだった。幸い術後は順調に回復。信頼のおける複数の医師の後押しもあり、昨年6月には5年間連れ添った相棒ジョゼップ・グアルディオラの後任という大役を引き受け、トップチームの監督に就任した。

 昨年12月には病気の再発が発覚。年明けからはチームを離れてニューヨークで専門治療を受けつつ、インターネットを駆使してチームを指揮する日々を2カ月も送りながら、リーガ・エスパニョーラでは史上タイ記録となる勝ち点100を積み上げて優勝、CLでは6年連続の準決勝進出という結果を出した。
 一方で彼は、レアル・マドリーとのエル・クラシコでは1勝2分3敗と負け越し、バイエルン・ミュンヘンとのCL準決勝では2試合合計0−7という歴史的大敗を喫したことで、強豪相手に正攻法が通じなかった際の無策ぶりも印象づけた。それは戦術面でグアルディオラを支えてきた名参謀にとって不本意だったことだろう。彼は昨季終盤にこう言っていた。

「昨季はけが人が多く、監督が2カ月もチームから離れた難しいシーズンだった。昨季は就任1年目だったから(良いところを引き継ぐのは)当たり前ではあるけれど、今季は異なることをやるつもりだよ」

 しかし、彼にその「異なること」を行う時間は残されていなかった。チームの始動からわず5日。ビラノバにとって勝負の1年となるはずだった2年目のシーズンは、結局1試合も指揮できぬまま幕を閉じた。

ありがとうバルサ、ありがとうみんな

 公式戦53試合を指揮して38勝8分7敗、1リーグタイトル。そんな記録と共に退任したビラノバは、クラブの公式HPを通して次のようなメッセージを残している。

「ありがとうバルサ、ありがとうみんな

 あらゆる指導者が抱く夢を現実のものとしてくれた素晴らしい5年間を過ごした後、変化のときが訪れた。今後は1年半前に発覚した病気の治療に力を注がなければいけなくなった。
 これからはじまる治療を続けながら、100パーセント監督業に身を捧げることは勧められないと医師から意見された。だが今後もこの愛するクラブのすぐそばで、異なる形で働き続けることになる。
(中略)
 この試合は1人で戦うものではない。自分は連帯意識に溢れたクラブの一員。これまでもそうだったように、この長い戦いの道のりに打ち勝つべく、皆がサポートしてくれることは分かっている。
(中略)
 最後に、世界最高のチームを率いる新監督の幸運と成功を願わずにこの手紙を終えるわけにはいかない。

みんな、ありがとう
ティト・ビラノバ」

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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