低調だった中国戦における許容と苦言=東アジア制覇より重き置く新戦力の発掘

宇都宮徹壱

2005年と2013年をつなぐもの

実に先発の6人がA代表初キャップとなった日本。急造チームなだけに脆さを露呈してしまった 【Getty Images】

「皆さんのおかげで本大会への出場権を獲得でき、その直後に行われる東アジアの勝者を決める大事な大会に日本代表として臨むわけだが、本大会までの1年間でしっかりとした準備をするという意味合いからも、優勝を狙うという強い気持ちで臨みたいと思う。(中略)今回は新しい試みとして何人か初代表の選手が入っている。FIFAの国際マッチデーではないということで、欧州組に関しては招集を見送った」

 これは東アジア選手権に向けた、日本代表メンバー発表の際の会見からの抜粋である。ただしコメントの主は、アルベルト・ザッケローニではなく、その前の前の前の代表監督であるジーコだ(ちなみに今回から大会名は「東アジアカップ」となっている)。今から8年前、2005年の東アジア選手権直前の日本代表をめぐる状況は、恐ろしく現在と似ていることに気づかされる。

 当時の日本は、すでにワールドカップ(W杯)予選突破を決めていたものの、海外組優先のメンバー固定化は、1年後のW杯を見据えた上での不安要素として、事あるごとに指摘されていた。そのため、コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)直後に韓国で開催された東アジア選手権では(これまた8年前とまったく同じシチュエーション!)、新戦力の発掘に主眼が置かれることとなった。

 この大会で代表初キャップを刻んだ選手は以下のとおり(カッコ内は当時の所属)。村井慎二(ジュビロ磐田)、今野泰幸(FC東京)、田中達也(浦和レッズ)、そして駒野友一(サンフレッチェ広島)と巻誠一郎(ジェフ千葉)。ちなみに駒野と巻は追加招集である。このうち、翌年のW杯ドイツ大会には駒野と巻が、さらに5年後の南アフリカ大会では今野と駒野が出場している。とりわけ後者2人のその後の代表での貢献度を考えると、この05年の東アジア選手権での新戦力発掘というミッションは、一定の成果を挙げることができたと言えよう。

 とはいえ、8年前の大会とは大きく異る部分もある。日本代表の海外組比率が、当時と比べて極端に上昇したため、2ケタのキャップ数を持つ選手は3人を数えるのみ(駒野=75、栗原勇蔵=17、槙野智章=11)。そのためキャップ数ゼロの選手15人を含む、これまでにないフレッシュな顔ぶれとなった。これほど経験値の少ない日本代表は、日程的な事情で実質的なBチームで臨んだ、10年1月6日のアジアカップ予選、アウエーでのイエメン戦以来のことである(スタメン11人中9人が初キャップだった)。

「アイデンティティー」を度外視したスタメン

 さて今回の東アジアカップは、FIFAマッチデーとの兼ね合いから欧州でプレーする選手を招集できないという縛りがある。そのため、いずれの出場チームも「国内組からの新戦力の発掘」がテーマとなっていた。今大会が初出場となるオーストラリアは、メンバーの固定化と高齢化(さらに言えばマンネリ化)がずっと課題となっている。ホスト国の韓国もまた、昨年まで五輪代表を率いていたホン・ミョンボが新監督に就任し、今大会を1年後に向けたチーム作りの第一歩と位置づけていた。唯一、W杯出場の道を絶たれている中国に至っては、つい1カ月前にカマーチョ監督の解任が決まったばかり。フー・ボーなる代行監督を立てたものの、この大会にどんな目標設定を掲げているのかは不明だ。

 では日本は、この東アジアカップでどれだけの選手を試すことができるのだろうか。先のコンフェデレーションズカップをメンバー固定で戦い、すでにグループリーグ敗退が決まっていたメキシコ戦でもスタメンを3人しか入れ替えなかった理由について、ザッケローニは「チーム全体を変えるとアイデンティティーを変えてしまうことになる」と説明している。とはいえ今回はオール国内組。今野と遠藤保仁の招集も見送られた。よって、まったくアイデンティティーを度外視したチームが誕生することは必定。初戦の中国戦で、指揮官がどのような11人をチョイスしてくるかに注目が集まっていた。

 果たして、ソウルワールドカップスタジアムのピッチに並んだスターティングイレブンは以下のとおり。GK西川周作。DFは右から駒野、栗原、森重真人、槙野。中盤は守備的な位置に山口螢と青山敏弘、右に工藤壮人、左に原口元気、トップ下に高萩洋次郎。そして1トップには柿谷曜一朗。初キャップを刻んだのは6人という、実にフレッシュな顔ぶれである。ちなみに試合2日前、練習が全体公開されており、2つに分かれたグループのうちの1つが今回のスタメンであった。してみると指揮官は、この新たな序列をベースとして、チームの再構築を試みようとしているのかもしれない。

 対する中国は、スターティングイレブンの内、実に6人を広州恒大の選手で固めてきた。恒大は2年連続で中国超級(スーパーリーグ)のチャンピオンに輝き、昨シーズンはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で柏レイソルとFC東京を破ってベスト8に進出を果たした強豪クラブだ。恒大主体のメンバー構成にしたのは、もちろんコンビネーション的なメリットもあるだろうが、それ以上にアジアでの戦いに慣れていること、そして日本に対する苦手意識のなさも理由としてあったのかもしれない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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