寺川綾、究極の目標と現役への思い=世界水泳バルセロナ2013

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「いまも現役でいられることはすごく幸せ」

ロンドン五輪では悲願のメダル獲得。大会後は引退もささやかれたが、「やりたかったから」と現役続行を決断した 【Getty Images】

――以前はロンドン五輪で最後と言っていました。現役を続行した理由は?

 やりたかったからです(笑)。簡単に言うとそれだけですね。

――決断するまでに迷いはありましたか?

 迷っていたんですけど、自分の中では決まっていたんだと思います。いや、迷っていないですね。やりたいと思っていたんだと。

――何か決断するきっかけはあったのですか?

 水泳教室をやる機会をたくさんいただいたんです。そこで模範泳法とかをやるんですけど、いままでの感覚と違い過ぎて、それが自分自身で許せなかった(笑)。「何これ、模範泳法でも何でもない」と思って。「こういう泳ぎを見てほしいのではない」と自分で思ったんですね。自分ではお休みを取って本当にどうしたいのか考えようと思っていたんですけど、泳ぎに納得できないでいる自分はおかしいなと。やはり自分はやりたいんだなと思いました。

――北島康介選手(アクエリアス)や松田丈志選手(コスモス薬品)といった同世代の現役続行表明は刺激になりましたか?

 同世代のなかでも「いつ辞める?」という話はあまりしてなかったんです。でも、皆やはり五輪がひとつの区切りだから、年齢も年齢だし、なんとなく辞めるんだろうなという雰囲気は流れていたんですよね。まず伊藤華英選手が引退しました。その後、イベントや会見で松田選手と一緒になることが多くて、「どうするの?」という話はしていたんですけど、お互い「辞める」という言葉を出さなかったので、「あ、やるんだな」と何となく感じ取ってはいました。いままで一緒に戦ってきた選手が、またこれからも世界で戦うことを目指して頑張るというのは、やはり心強いですよね。そういう選手がいるといないでは全然違いますし、ひとつのモチベーションだと思っています。

――現役を続行して良かったなと思いますか?

 選手としては結果がすべてなので、夏が終わってみないと何とも言えないですが、この世界は1回辞めると決めて、あとから戻りたいと思ってもすぐに戻れないんです。だから、いまも自分が現役でいられることはすごく幸せだし、続けさせてもらっていることにも感謝しています。昔はここまで自分が続けていることなんて想像できなかったので、ありがたいなと思っています。

――例えば、自分がどうなったら引退するとかは決めているのですか?

 決めてないです。辞めると思ったときが辞めるときなので、無理やり決めたくはないなと思っています。

「自分のことをいろいろ考えるようになりました」

日本選手権では圧倒的な泳ぎで2冠達成。バルセロナでも金メダル獲得を狙う 【写真は共同】

――今年4月の日本選手権、5月のジャパンオープンと2冠を達成しました。ここで得た収穫や課題はありますか?

 そんなにないですね。夏に向けてずっとやってきたので、4月時点のことはあまり考えないようにしていました。自己ベストが出たことやそれに近い記録が出たのはプラスだと思うんですけど、それにすがっていたら夏に向けての成長はありませんし、それを自信に変えてというのはいまの自分には違う気がするんです。もちろん試合ごとに目標を持ってやっていたんですけど、どうしても夏を最優先に考えていたので、本当に単なる通過点でしかないという感じです。

――夏に向けて強化したい部分はありますか?

 ずっと脚が弱かったので、脚力の強化をと思って、いままでやってきました。ただ、どうしても脚が疲れてくると泳げなくなり、記録に影響してしまうので、やりつつ抜きつつの繰り返しになってしまっているんです。それがどうバルセロナで結果として現れるのか分からないですけど、そんなにマイナスに考えないようにしていこうと思っています。

――日ごろからモチベーションを維持するために意識していることはありますか?

 いまはバルセロナで金メダルを目指すことや、50メートルと100メートルの両方を日本新記録で優勝したいという夏の目標があるので、それをつねに頭に入れています。

――日本選手権後、平井コーチが「寺川選手は内面の充実が素晴らしい」と評価していました。競技に臨む姿勢が五輪を境に変わったということはありますか?

 無理をしない程度に頑張ろうというのはずっと思ってやってきました。どうしても大きい大会の前になると、無理をしてしまうんですが、それはアスリートとして普通のことですよね。いままではそんなに自分のことをよく考えていなかった。「こういうときは、こうすれば良い」というやり方がなかったんですけど、疲れ過ぎてどん底になってしまうと、そこからはい上がっていくのは大変なので、この程度でやめておこうとか、いろいろ考えるようにはなりましたね。

「具体的な目標は金メダル獲得です」

――ジャパンオープン後の壮行会で、世界選手権に向けてのテーマを『極』と掲げていました。どういう意味が込められているのでしょうか?

 昨年は漢字一文字で『輝』という字をテーマにして、人としてもアスリートとしても輝くということを目標に置いていました。昨年は五輪で最高のレースができたので、今年はそれをさらに研ぎ澄ますというか、選手として結果を出すために自分の泳ぎをもっと極めたいという気持ちでテーマを決めました。

――極めるという部分では、自分なりに納得のいくレースはどれくらいあるのでしょうか?

 あまりないんですよね。五輪の決勝がいままで一番のレースだとは思っています。記録だけじゃなく、精神的にもすごく充実していましたし、これをひとつの点として置いて、さらにどう生かしていくかは自分次第かと。こういったレースを目指し、日ごろからトレーニングで磨き、夏にバルセロナでその成果を出せればいいなと思っています。

――新生チームジャパンはすでに動き出していますが、昨年のチームと変わった点はありますか?

 まだそんなにみんなと過ごしていないので分からないですけど、去年よりは人数が多いです。若いかな(笑)。メンバーは若手が多いし、初めての選手もいるので、若い刺激を受けますね。知らないことを教えてもらったり、そういうことも増えているんです。皆、戦う姿勢を持ってやっているので、今年も必ず良いチームになると思っています。

――意識するライバルのような選手はいますか?

 自分はいま、持ちタイムも一番ではないですし、上には上がいると思っています。でもそのときのコンディションは誰にも分からないし、スタートしてからタッチするまで誰が勝つか分からないと思うので、自分がどういうレースをするかということだけを考えていきたいです。

――では最後に、これは誘導尋問ではないですが(笑)、世界選手権の具体的な目標を聞かせてください

 誘導尋問ですよ(笑)。具体的な目標はもちろん金メダル獲得です。それを目指して最後まで頑張ります。

<了>

(取材・大橋護良/スポーツナビ)

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