アルゼンチンで異彩を放つニューウェルス=ポゼッションサッカーが成し遂げた功績

結果主義に相反するクラブの価値観

退団を発表したマルティーノ監督。混沌(こんとん)とするアルゼンチンフットボール界の現状に疲れたようだ 【写真:AP/アフロ】

 ニューウェルスが成し遂げた功績は、1931年の創立以降6度目となるリーグ優勝という結果だけではない。良いプレーをしながら勝つことは可能であり、むしろ良質のフットボールこそ勝利へ続く最善の道である。理想のプレーに近づけば近づくほど、チームには独自のアイデンティティーが生まれ、成功を手にする可能性も増える。彼らは結果主義が蔓延(まんえん)してきた近年のアルゼンチンフットボール界に対し、相反する価値観を示したのである。

 昔から良質のフットボールを提供するクラブというイメージがあったニューウェルスは、これまでホルヘ・バルダーノ、フアン・シモン、ワルテル・サムエル、アベル・バルボ、ガブリエル・バティストゥータ、現役時代のマルティーノ、そしてリオネル・メッシ(12歳までではあるが)といったスター選手を何人も輩出してきた。またディエゴ・マラドーナ、リカルド・ローシャ、アリエル・オルテガといったスターたちも、そのシャツに袖を通した経験がある。

 ホームスタジアムにビエルサの名がつけられたこともまた、このクラブの特徴を物語っている。選手としてニューウェルスでトップリーグデビューを果たした彼は、監督として90−91、91−92シーズンにリーグ優勝を果たし、リベルタドーレスでも決勝に進出した輝かしい実績を持つ(決勝ではテレ・サンターナ率いるサンパウロに敗れたが)。当時のチームは今もファンの語り草となっている。

 当時のビエルサと同じく、マルティーノもまた来季は続投しないことを決断した。混沌(こんとん)としたアルゼンチンフットボール界の現状がもたらすストレスに疲弊した彼は、リベルタドーレスの結果がどうなろうとも退団する意思を固めていたのである。そしてクラブは、彼と同じく90年代にニューウェルスのピボーテとして活躍し、これまでユースチームを指揮していたアルフレド・ベルティを後任に据えることを決定した。

 現役引退を検討しているエインセ、他国から多数のオファーを受けているスコッコをはじめ多数の選手がチームを去る可能性が高い現状、クラブにはいかにして戦力ダウンを避けるかという課題もある。だが昨季示した確固たるプレー哲学、ボールポゼッションと個々のテクニックを重視したスタイルが変わることはないはずだ。たとえそれが、同国のスタンダードとは相反するものであっても。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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