外国人記者に聞くW杯ブラジル開催の懸念=コンフェデ杯で露呈した運営面の不安

元川悦子

コンフェデ杯優勝もW杯へ不安絶えないホスト国

ブラジルの優勝で盛り上がりを見せたコンフェデ杯であったが、課題は山積み。国民の不安はデモという形で噴出した 【Getty Images】

 ホスト国・ブラジルが2010年南アフリカワールドカップ(W杯)王者・スペインを3−0で圧倒する形で大会3連覇を飾った2013年コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)。昨年11月のルイス・フェリペ・スコラーリ監督就任からコンフェデ杯までの戦績が2勝4分1敗と振るわず、開幕前は若手中心のセレソンへの批判も根強かった。しかし、ブラジル代表が快進撃を見せたおかげで、今大会は大いに盛り上がったといえるだろう。

 その傍らで、14年ブラジルW杯開催に伴う汚職や公費無駄遣いに反対するデモは加熱する一方だった。日本対メキシコ戦が行われた22日のベロオリゾンテでもデモ隊の行動がエスカレート。道路が封鎖され、交通に支障が出る事態に陥った。デモ隊と治安部隊が衝突し、負傷者が出た開催地もあったようだ。

「来年のW杯は12会場(リオデジャネイロ、サンパウロ、ブラジリア、フォルタレザ、サルバドール、レシフェ、マナウス、ナタール、クイアバ、ベロオリゾンテ、クリチーバ、ポルトアレグレ)で行われる。当初予定では1年前の時点で大半の施設が完成することになっていたのに、実際は今回のコンフェデ杯で使われた6会場(リオデジャネイロ、ブラジリア、フォルタレザ、サルバドール、レシフェ、ベロオリゾンテ)しかできていない。その6会場も完全に工事が終わっているのはリオデジャネイロのマラカナンくらいで、ほかのスタジアムは未完成の部分が少なくない。メディアも国民も猛烈に批判しているので、1年後には滞りなくできるとは思うが、こういう遅れが出ているのは政治家がきちんと計画をせずに公金で私腹を肥やしているから。ブラジルという国はそういう問題が起きがち。市民が怒るのも当然だと思う」とベロオリゾンテの日刊紙「Jornal Hoje Em Dia(ジャーナル・ホジェ・エン・ディア)のビニシス・ラスカサス記者も神妙な面持ちで語っていた。

後利用、アクセス……スタジアムは問題山積み

 確かに、今大会の取材中もスタジアム建設の遅れはあちこちで目についた。ブラジリアのエスタディオ・ナシオナルでは室内の電気系統がむき出しになっていたし、レシフェのアレナ・ペルナンブコでも付帯施設ができていなかった。記者席への動線も分かりにくく、前日練習の際は土砂降りのスコールに濡れながらスタンドへ上がったほどだ。

「現在の建設状況も気になるが、スタジアムの後利用も気がかり」と指摘するのは、1986年メキシコ大会から7回連続でW杯を取材し、アルゼンチンの日刊紙「Diario Jornada(ディアリオ・ジョルナーダ)」に寄稿するマドリー在住のアルゼンチン人記者、セルヒオ・レビンスキー氏だ。

「4万2000人超収容のマナウスにはプロチームがないし、7万人収容のブラジリアにしても3部リーグのクラブがあるだけ。そんな地域に巨大スタジアムを作っても町の財政負担が重くなるばかりだ。わたしの母国アルゼンチンで78年に開かれたW杯を振り返ってみても、6会場のうちコルドバとメンドーサ、マルデルプラタの3会場が新設だったが、メンドーサはその後30年間使われず、マルデルプラタも1〜2試合が行われたのみ。02年日韓大会でも10年南ア大会でも同じような地域がある。ブラジルもわざわざ12会場で開催する必要はなかった。8会場くらいが適当だったのではないかと思う」と痛烈に疑問を投げかけている。

 開催地が12になったのは、ブラジルサッカー連盟のリカルド・テイシェイラ前会長の曖昧なスタンスが原因だと見る向きもある。
「ブラジル27州に対して八方美人の態度を取り、開催地を絞り切れなかった。今回のW杯開催にお金を使いすぎているというのは間違いなく正論。施設の後利用を含めて、方向性を真剣に考えなければいけない」とリオデジャネイロの日刊紙「Cancer(カンサー)!」の女性記者、アメリア・サビノ氏もズバリ言う。

 せっかく作ったスタジアムを積極活用するには、アクセスを含めて使いやすさが求められる。だが、市街地から15キロ離れた山間部にあるレシフェのアレナ・ペルナンブコなどは行きにくさがかなり気になった。「われわれメディア関係者は所定の場所からメディアバスに乗ればいいからスムーズで良かった」とEuropian Press Photo Egency(ヨーロピアン・プレス・フォト・エージェンシー=EPA)のルーマニア人フォトグラファー・ゲべント・ロベルト氏は前向きにコメントしていたが、19日の日本対イタリア戦の時は、夕方の帰宅ラッシュと重なってスタジアムへ着くまでに2時間もかかってしまった。サポーターに至っては試合後、市街地まで戻るのに列車やバスを乗り継いで3時間も費やしたという。ブラジル国内平均2倍もの殺人事件が起きているレシフェで夜中に町をウロウロしなければならないのは重大な問題だ。日本でも宮城スタジアムのように遠隔地にあるスタジアムは常にアクセスの不備が取りざたされる。そのあたりをきちんと整備することも、来年に向けての大きなテーマと言える。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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