スタジアムと町で感じたブラジルの裏表=花火が鳴る中で狙われた僕の小銭
バスの中とは違うブラジルの姿
スタジアムと違い英語の通じる率は非常に低かったが、それでも何人かのデモ参加者と話しができた。ベロ・オリゾンテのデモで給与改善を訴えていた中学校教師は「私の1カ月の給料はアメリカドルに直して600だけなの」と語ってくれた。日本と変わらぬ物価高のブラジルで教師の給料が600ドルとは確かに低すぎる。
デモをする医者たちの要求は給料ではなく、医療施設の改善にあった。「ワールドカップ(W杯)におけるFIFAのスタジアムに対する要求はものすごくレベルが高い。しかし、ブラジルの医療施設はFIFA基準を全く満たしていないんだ(苦笑)」
そしてサッカー王国ブラジルの姿も町にはあった。ある日、日本のライター、カメラマンたちとチームを作り、公園でフットサルをしているブラジル人相手に試合を申し込んでサッカーをしていたところ、どんどんギャラリーがふくれあがっていった。サッカーの試合をしているのを見つければ、そこで立ち止まって試合を見る。それがブラジルなのだと体感した。
試合で盛り上がるその裏で
僕はホテルへ戻り少しだけ寝ようと思ったが、フレッジの先制ゴールのにぎわいによってようやく起き上がった。急いでパブリックビューイングまで走ったが、あまりの人の多さに良いポジションまで近付けなかった。今、ピッチの上で何が起こっているのか、豆粒ほどの画面からはうかがい知ることはできなかったが、それでも大勢のブラジル人たちのライブ感を楽しもうと僕はその場にいることにした。
フレッジが3−0とするゴールを決めると、さっきからふらついて歩いていたおっさんが僕に抱きついてきて「ブラジル!」と叫んだ。そしてハイタッチ。それからもう一度、僕に抱きついてきて耳元で「なあ、小銭をくれないかなあ」とささやいた。そのポルトガル語は今回の旅行で何度も聞いていたからすぐに理解できた。どっかん、どっかんとゴールを祝う花火が広場に上がる中、僕はズボンのポケットにおっさんの手が伸びてこないよう、必死に腰を逃がしていた。
<了>