スタジアムと町で感じたブラジルの裏表=花火が鳴る中で狙われた僕の小銭
観衆をとりこにしたブッフォン
町中のパブリックビューイングは人で溢れ返り、前に進むことができないほどだった 【中田徹】
イタリアはアレッサンドロ・ディアマンティとダビデ・アストーリが2ゴール、ウルグアイはエディンソン・カバーニが2ゴールを挙げ、試合は2−2で終盤に入った。隣に座ったブラジル人が、僕に「さあ、ここからお前はどっちを応援する?」と聞いてきたので「ウルグアイ」と答えた。
「そうか。俺もウルグアイを応援しようと考えていたんだ」とお互いの意見が一致した。
スタジアムの雰囲気もウルグアイに傾いていた。キックオフ直後、ブラジル人はイタリアを応援していたようだった。しかし、前半途中、ウルグアイのゴールがオフサイドで取り消された頃からスタンドの空気が一変し、ブラジル人たちは隣国のライバルを応援し始めたのだ。
ところがイタリアの守護神ジャンルイジ・ブッフォンのスペイン戦に続くビッグセーブの連発はブラジル人をとりこにした。後半、ディエゴ・フォルランのシュートを2度にわたる好反応で防いだブッフォンに対し、ブラジル人たちは「ブッフォン! ブッフォン!」と惜しみないコールを送ったのだ。こうした試合の過程があって、「イタリア(=ブッフォン)もいいけど、どっちを応援するか」と隣に座ったブラジル人は僕につぶやいてきたのである。
必ずどちらかを応援するブラジルの観戦スタイル
これがブラジル代表の試合となると、ブラジル人たちは日本人の僕を応援に巻き込んでくる。準決勝のブラジル対ウルグアイでは一緒に「Eu sou brasileiro(私はブラジル人)」と歌い、フレッジがゴールを決めると「フレッジ、お前はマタドール!」というチャントを合唱し、ネイマールダンスも教わるハメになった。
しかもブラジル人は、地元のひいきチームを持っている。時折、試合の流れとは関係なくスタンドからものすごい声援と、それに対するブーイングが起こることがある。それはブラジル人たちが地元チームのチャントを始め、ライバルチームのサポーターがブーイングで対抗しているからだ。3位決定戦ではバイーアのサポーターが歌う「バイーア! バイーア! 俺の人生、バイーア! 俺の誇り、俺の愛」というチャントと、ビットリアのサポーターが歌う「ネゴ、ネゴ、ネゴ! 俺はビットリア。俺はライオン。赤と黒のハート」というチャントが観客席を飛び交っていた。
ウルグアイとイタリアのPK戦ではブッフォンがウルグアイのPKを止めまくり、イタリアがコンフェデ杯の3位となった。サルバドールのフォンチ・ノーバスタジアムは「ブッフォン! ブッフォン! ブッフォン!」「ウルグアイ! ウルグアイ! ウルグアイ!」の叫び声がかぶり合った。素晴らしき熱闘はスタジアムの雰囲気を“中立”へと導いていた。
スタジアムへ来る高い教育を受けた層
ベロ・オリゾンテで見たブラジル対ウルグアイの帰りだった。混雑をかきわけ、やっとの思いでバスに乗り込んだのは良いものの、なぜかバスはどんどん町から遠ざかって行った。「いったい、このバスはどこまでいってしまうのか!?」と不安げにスマートフォンの地図をチェックする僕に対し、隣に座ったブラジル人が英語で「君は僕の助けが必要なのかい?」と尋ねてきた。そこで「セントロに戻りたいんだ」と答えると、「心配しなくていいよ。このバスはメトロの駅に接続するから、僕がそこまで案内してあげるよ」と助けてくれた。
観客席や、試合前のコンコースでの会話のほとんどは英語だった。ポルトガル語しかしゃべれないブラジル人との会話も、近くの誰かが英語の通訳を買って出てくれた。そんなことを繰り返していくと、やがて町の中のブラジル人と、スタジアムへやってくるブラジル人との大きな差に気付いてくる。コンフェデ杯の観戦に来るブラジル人たちは、かなり社会的地位、金銭的に恵まれており、高い教育を受けている層なのではないかと。事実、「僕は(大手コンピューター会社の)A社でIT技術者をしている」「僕は(日本電動工具メーカー大手の)Bに務めているから大阪に行ったこともある」「僕は最近までカナダで働いていたんだ」と彼らから聞いた。「もうひらがなはオッケー。カタカナも覚えかけだよ」日本語を学ぶ意欲に溢れた者も複数人いた。
世の中には例外もある。準決勝のスペイン対イタリアでは場内でけんか騒ぎが起こった。それでもコンフェデ杯の試合ではスリにあう心配をすることなく、誰かのゴールを周囲のブラジル人たちと抱き合って喜ぶことができた。