大国による死闘に胸を熱くした120分=コンフェデ杯通信2013(6月27日)

宇都宮徹壱

準決勝でイタリアが喪章を付けた理由

フォルタレザのスタジアム「カステロン」。本大会の会場の中では最も早くに完成した 【宇都宮徹壱】

 6月15日(日本時間16日)に開幕したコンフェデレーションズカップも、この日の準決勝を含めて残り3試合。ここフォルタレザではエスタジオ・ゴベルナドール・プラーシド・カステロ(通称カステロン)にて、スペイン対イタリアのヨーロッパ勢同士によるファイナル進出を懸けたゲームが行われた。カステロンは6万4800人収容。スタンドが開放的でとても好感が持てるスタジアムだが、それ以上に特筆すべきことはバックヤードも含めてきちんと完成していたことだ。何でも予定の4カ月前に工期を終え、来年のワールドカップ(W杯)で使用される競技施設の中では最も早く完成したそうである。

 キックオフは16時。いつものように、その1時間前に両チームのスターティングリストが配布される。スペインは2試合ぶりに守護神にしてキャプテンのカシージャスが復帰し(といっても、GKに関してはグループリーグで余裕のローテーションを組んだ結果だが)、セスク・ファブレガスがベンチスタートとなった以外はお馴染みの顔ぶれ。1トップには2試合ぶりにフェルナンド・トーレスが起用されている。

 対するイタリアは、先のブラジル戦でけが人が続出したのが気になる。DFアバーテ(肩を脱臼)、FWバロテッリ(左ももを打撲)はいずれもベンチにも入っていない(バロテッリはすでにイタリアに帰国)。また、頭を打って途中交代したMFモントリーボも控えに回った。とはいえ、バロテッリの代役にジラルディーノが入った以外は、それほど遜色(そんしょく)のないメンバーが並ぶ。どんなアクシデントがあっても、決して動じることはない。この層の厚さこそが、ヨーロッパの伝統国の証(あかし)である。

 ちなみにこの日、白のセカンドユニホームのイタリア代表は喪章を付けてプレーした。このほど49歳の若さで逝去した、元イタリア代表のステファノ・ボルゴノーボを追悼するためである。キャップ数はわずかに3試合。それでもアズーリ(イタリア代表の愛称)が彼をリスペクトするのは、自身がALS(筋萎縮側策硬化症=全身の筋力が失われてやがて死に至る難病)であることを公表し、病気への理解と治療の研究が促進されることを訴えてきたからだ。2008年10月には、彼が所属していたフィオレンティーナとミランとのチャリティーマッチが行われ、ロベルト・バッジオをはじめ元チームメートたちが駆けつけて車椅子のボルゴノーボを激励した(ただし彼はすでに言葉を発することができなかったため、特殊なノートパソコンを用いて友人やサポーターに感謝の意を伝えた)。

 確かにボルゴノーボは、残念ながらフットボーラーとして輝かしいキャリアを築くには至らなかった。それでも彼が、イタリアフットボール界に与えた勇気は計り知れない。その勇気が、もしかしたらユーロ(欧州選手権)を連覇し、W杯王者でもあるスペインに挑むイタリアに、何かしらの力を与えるのではないか――。そんな期待を抱きながらキックオフの時を迎えた。

120分トータルでイタリアを上回ったスペイン

スペイン(赤)の勝利とイタリア(白)の敗北を分けたPK戦だったが、両者の勇気ある戦いには胸が熱くなった 【Getty Images】

 実際、イタリアは(そしてスペインも)延長戦を含む120分間、見る者の胸を熱くするくらい勇気ある戦いを見せてくれた。結局、0−0のまま決着はPK戦に委ねられたが、天に召されたボルゴノーボも後輩たちの健闘ぶりに拍手を送ったことだろう。ゴールこそ生まれなかったものの、この準決勝はさまざまなエピソードを含んだ、非常に興味深いゲームとなった。ここでは、個人的に印象に残ったポイントを3点、挙げておきたい。

 1つめのポイントは、イタリアの攻撃がある時間までスペインに対して優位に立っていたことである。前半のみのスタッツでは、ポゼッションでは62%と38%でスペインが大きく上回っていたものの、シュート数ではスペインがわずか2本(枠内ゼロ)だったのに対し、イタリアは9本(枠内6)も放っている。パスは回るがなかなかシュートを打たせてもらえないスペインに対し、イタリアは右のマッジョ、左のジャッケリーニを起点としながら、両サイドからのシンプルな展開でたびたびスペインゴールを脅かす。後半になると、プランデッリ監督はモントリーボを投入してシステムを3バックに変更、中盤に厚みを加えて一気に勝負をかけてくる。

 しかし、スペインの守備は崩れなかった。それどころか、彼らは尻上がりに調子を取り戻し、延長戦に入ると完全にイタリアを圧倒していた。これが、この試合の2つ目のポイントである。前半の彼らは、連戦の影響もあって明らかに精彩を欠いていた。それでも(いくつかの幸運もあったが)イタリアの攻撃をしのぎきると、相手の運動量の低下に反比例するかのように本来のパス&ムーブが躍動する。120分トータルでのスタッツは、ポゼッションで53%と47%、シュート数では19本(枠内5)と13本(枠内6)で、終わってみればいずれもスペインがイタリアを上回っていた。悪いながらも帳尻を合わせてくる、いかにも強豪国の真骨頂と言えよう。

 そして3つめのポイントは、PK戦における両チームの選手たちのキックの正確さとバリエーションの豊富さである。これだけの死闘を演じたにもかかわらず、いずれのキッカーも冷静で精度の高いキックを放つ。GKのタイミングを外すようなモーションや、ふわりと浮かしたボールや、わざとスピードを落としたシュート(いわゆるコロコロPK)など、カシージャスとブッフォンという世界を代表するGKに対して、いずれもセーブされることなく粛々とキックを成功させてゆく。最後は、イタリア7人目のボヌッチのキックがバーを超えたことでスペインの勝利が決したが、それにしても近年まれに見るくらい、極めてレベルの高いPK戦を堪能させてもらった。

 かくして、リオデジャネイロでの決勝のカードはブラジル対スペインに決まった。この試合では、地元のブラジル人は完全にイタリア寄りで、スペインの勝利が決まった瞬間には場内が大ブーイングで包まれた。判官びいきによるものか、それとも強すぎるスペインへの反発か。いずれにせよホスト国ブラジルにとっては、この大舞台で世界チャンピオンと相対することができたのは願ってもないチャンスであろう。休息が1日少ないスペインのコンディション回復が気になるところではあるが、ファイナルもグッドゲームとなることを期待しながら、さっそくリオに向かう準備を始めることにしたい。

<了>

※明日のコンフェデ通信は移動のため休載とさせていただきます。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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