ブラジルサポーターが身近に感じられた日=コンフェデ杯通信2013(6月26日)

宇都宮徹壱

南米王者に挑むブラジル代表

フォルタレーザのPV会場にて、不安な面持ちでウルグアイ戦を見守る若いカップル 【宇都宮徹壱】

 左サイドからのマルセロのクロスが上がる。これを中央でフレッジが胸で落とす。そこに走り込んできたネイマールが右足ダイレクトでボレーシュート。その弾道を確認するかのように振り返る、今野泰幸の表情がこわばって見える。そしてボールは、川島永嗣の指先をすり抜けてゴールネットに突き刺さる――。

 言うまでもなく、コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)開幕戦、ブラジル対日本での開始早々のネイマールのゴールシーンである。この映像を私は、ブラジル滞在中に何度目にしてきたことか。ブラジルのここまでの快進撃を支えているのは、間違いなくネイマールであり、当然ながらここまでの彼のゴールシーンは、さまざまな番組でリプレーされた。そこで必ず取り上げられるのが、イタリア戦でのFKによるゴールと、この日本戦での鮮やかなボレーによるゴール。我らが日本代表は、そのたびに哀れな「やられ役」として登場するのである。この日、朝食時に食堂のテレビでまたもや見せられたときには、さすがに「もう勘弁してよ!」と思ってしまった。

 そんなブラジルが、この日の準決勝で対戦するのは、コパ・アメリカ(南米選手権)2011の優勝チームであるウルグアイ。ブラジルがリオデジャネイロでの決勝戦にコマを進めるためには、この南米のライバルをベロ・オリゾンテで打ち破らなければならない。とはいえ、ブラジルにとってウルグアイは、どちらかと言えば相性が悪くない相手だ。最後の敗戦は、01年7月1日のモンテビデオでのワールドカップ(W杯)予選(結果は0−1)。以来、12年にわたって一度たりとも敗れてはいない。とはいえ、相手は現南米王者であり、前回のW杯ではブラジル(ベスト8)よりもひとつ上のベスト4進出を果たしている。FIFA(国際サッカー連盟)ランキングでも、ブラジルの22位に対してウルグアイは19位。立場としては「向こうのほうがやや上」というのがブラジル人全般の認識であろう。

 さて、この日の準決勝はフォルタレーザのPV(パブリックビューイング)会場で観戦することにした。ブラジル全国民が注目するカードだから、必ずPV会場はあるだろうと確信していたが、何と私が泊まっているホテルのすぐそばのビーチに特設会場があった。この日のキックオフは16時。やはりウイークデーということもあり、キックオフ直前は観客も300人ほどであったが、試合開始と同時にみるみる会場は地元のファンで埋め尽くされてゆく。この人たちは、早々に仕事を切り上げてきたのだろうか。それにしては、レプリカにブラジル国旗にフェイスペインティングと、皆さんおよそ仕事帰りには見えない格好である。さすがはブラジル、代表戦ともなると気合いの入り方が半端ではない。

またもセレソンを救ったネイマール

ネイマールの2アシストでブラジルが決勝進出。地元ファンのはじけっぷりは尋常でなかった 【宇都宮徹壱】

 会場が最初に盛り上がったのは前半14分、ウルグアイのディエゴ・フォルランのPKを、ブラジルの守護神ジュリオ・セーザルが阻止したシーンだ。PKを献上したのは、ダビド・ルイス。相手のコーナーキックの瞬間、中央で待ち構えていたディエゴ・ルガーノを柔道の大技のように倒してしまい、自らもイエローカードをもらっている。ここでウルグアイが先制していたら、ブラジルは非常に苦しい展開になっていただろう。

 先制したのはブラジル。41分、後方からの30メートル以上のフィードにネイマールが追いつき、ゴールラインぎりぎりでちょんと折り返す。ボールが相手GKに当たったところに、走り込んできたフレッジがジャンプしながら右足でキック。当たり損ないではあったが、幸い意外なコースに飛んでゴールに収まった。ところがエンドが変わった後半3分、ブラジルは自陣ペナルティーエリアでの中途半端なパスを奪われ、エディンソン・カバーニに同点ゴールを決められてしまう。これ以降、攻めるブラジル、しのぐウルグアイという構図で、両者のきっ抗した展開がしばらく続いた。

 そして、このまま延長戦に突入かと思われた後半41分、またしてもネイマールを起点にゴールが生まれる。左からのコーナーキックに、ファーサイドに侵入していたパウリーニョが高い打点からヘディングシュートを放ち、これが決勝点となった。この日のネイマールは、連戦の疲れからか精彩を欠いていたものの、それでも2アシストを記録。また、地元アトレティコ・ミネイロ所属のベルナルドが、フッキに代わって出場し(そのときスタジアムは大声援に包まれた)、及第点以上の働きを見せていたのも好材料だった。ブラジルにとっては、決して楽な試合内容ではなかったものの、それでもファイナルに向けて弾みがつく勝利であったと言えよう。

 それにしても、試合後のPV会場での人々のはじけっぷりは尋常ではなかった。中には感極まって涙する女性もいたくらいだ。コンフェデ杯でのファイナル進出は、これで3大会連続。しかも相手は、ここ12年負けなしのウルグアイである。かつてのブラジルのサポーターであれば、もう少し王者然とした余裕が感じられたところだが、セレソン自体が小ぶりな存在となってしまったのだから当然といえば当然か。それでも、ひとつひとつの勝利を喜ぶ彼らの姿を見ていると、何やら妙に愛おしさが感じられてくる。これまで遠い存在でしかなかった、ブラジル代表とそのサポーター。彼らとの距離が、ぐっと身近に感じられるようになった一日であった。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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