赤道に最も近い開催地にて=コンフェデ杯通信2013(6月25日)

宇都宮徹壱

美しいビーチと不穏な空気のフォルタレザ

赤道にほど近いフォルタレザでは冬でも真夏のような日差し。子供たちも波に洗われて楽しそう 【宇都宮徹壱】

 コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)、スペイン対イタリアによる準決勝の会場となるフォルタレザは、大西洋に面した東北海岸の港町にしてセアラ州の州都でもある。投宿先のすぐ近くにベイラマールというビーチがあり、その周辺には高層マンションやホテルが林立している。どうやら典型的なリゾート地のようだ。ガイドブックによれば、スペインの探検家、ビセンテ・ヤーニェス・ピンソンが1500年2月にヨーロッパ人として初めて、この地に上陸したことで有名らしい。

 そんなフォルタレザだが、美しいビーチから少し外れると、いささか不穏な空気が漂う路地がいくつもあり、特に日が沈んで以降は緊張感を強いられることになる。周辺の住宅地や宿泊施設では、壁に鉄条網や高圧電流線をはりめぐらせていたり、自動開閉式の鉄製の門があったりして、さながら南アフリカの都市部を想起させるような厳重なセキュリティーである。ベロ・オリゾンテのような反政府デモは見られなかったが、それでも(先に訪れたレシフェほどではないにせよ)外出には最低限の注意が必要であろう。

 フォルタレザ滞在2日目の昼、ベイラマールから中心街にかけてゆっくりと散策してみた。思っていたより日差しは強く、サングラスを持って来なかったことを後悔する。街中で見かけた温度計は「30度」を表示していたが、体感的にはもっと暑かったように思う。洗濯したばかりのTシャツは、すぐに汗で重くなった。南半球はすでに秋から冬に移ろう時期だが、ブラジル北部はいまの日本と変わらないくらいに太陽が照りつけている。ここフォルタレザは、今大会で最も北に位置していて南緯3度46分。もう少し北に移動すれば、そこはもう赤道直下である。

 ちなみにワールドカップ(W杯)本大会では、ほぼ同じ緯度の開催地としてマナウスがあり(南緯3度7分)、この2会場で試合を行うチームはそれなりの暑熱対策が必要となるはずだ。マナウスでは15時キックオフが2試合、フォルタレザでは13時キックオフが1試合組まれている。日本との時差が12時間あることを考えれば、テレビ的には日本の試合が現地時間の昼に行われるのが望ましいだろうが、その代償として選手たちが暑さで苦労することは認識しておいたようがよい。いずれにせよ来年の本大会では、どのチームも現地での移動距離と気温差の対応に追われるのは間違いないだろう。

準決勝を前日に控えて

ベイラマールのビーチを散策。頭上のインスタレーションは、コンフェデ杯出場国の国旗を表している 【宇都宮徹壱】

 夜、街中の庶民的なイタリアンで、地元で採れたエビを食べながら、店内のテレビをぼんやりと眺めていた。明日(26日)、ベロ・オリゾンテでウルグアイとの準決勝を戦うブラジル代表の最新情報が流れ、番組ではネイマールとフレッジをクローズアップしていた。相変わらずポルトガル語はさっぱり分からないが、映像の編集を見る限り、今大会のセレソン(ブラジル代表の愛称)に対してかなり好意的に報じていることだけは理解できた。大会前、地元ジャーナリストがルイス・フェリペ・スコラーリ監督にネガティブな質問を浴びせていたことが、ずい分と昔のことのように思えてならない。

 ふと、日本代表のその後に想いをめぐらせる。ちょうど無事に帰国したとのニュースをネットで見つけたが、ほとんどの選手が疲れきった表情であまり多くを語らなかったという。3戦全敗という結果もさることながら、トランジットを含めて丸1日以上の移動が相当な負担だったことは容易に想像できる。

 そもそも今回の代表合宿自体、ブルガリア戦が行われる4日前の5月26日からスタートしていた(所属チームの都合で合流が遅れた選手もいたが)。それからほぼ1カ月。その間に、W杯予選突破の国民的喧騒があり、ドーハでのタフなイラク戦があり、そして広大なブラジル国内を移動しながら、ブラジル、イタリア、メキシコといった強豪との3連戦に臨んだのである。強行日程に加え、メディアの注目度と世論の極端な浮き沈みに、選手もさぞかし消耗していることだろう。まずは十分に休息をとってほしいところだ。

 一方でアルベルト・ザッケローニ監督は、そのままブラジルに残ってコンフェデ杯の残り試合を視察するという。どういうスケジュールなのかは把握していないが、おそらくここフォルタレザでのスペイン対イタリアはスタンドで観戦することだろう。日本では「監督交代」の意見も出ていると聞くが、私は今こそ、この人のイタリア人らしいリアリズムに期待すべきではないかと考えている。今大会は時間的な制約もあり、日本はアジアモードのままで世界の強豪にぶつかるしかなかった。今後、世界モードに切り替えていく上で必要なものが、今大会の準決勝と決勝から見えてくるだろう。そこで得た結論が、今後のチームマネジメントでしっかりと生かされることを強く望みたい。

 そんなわけで、明日からはいよいよ準決勝。ブラジル対ウルグアイの南米対決は、なんとかパブリックビューイングの会場を見つけて、地元の人々の熱狂を体感しながら観戦することにしよう。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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