錦織、夢の「トップ10」への戸惑いと野心=聖地ウィンブルドンでの戦いへ

内田暁

世界が期待 「近い未来のトップ5」

夢の領域に急接近する錦織圭。聖地ウィンブルドンでの戦いに臨む 【写真:Press Association/アフロ】

 テニスの聖地――四大大会の中でも、その歴史と格調の高さ故に別格な存在として扱われるウィンブルドン選手権は、多くの選手や関係者から、畏敬の念を込めそう呼ばれている。ロンドンの代名詞とも言える曇天も、ウィンブルドンの青芝を育む源と思えば雅やかに感じられるから、不思議だ。

 その聖地に錦織圭(日清食品)は、栄えある第12シード選手として足を踏み入れる。先週月曜日に発表された世界ランキングは、11位。「今シーズンの目標」と公言してきたトップ10に、あと1つというところまで肉薄した。

 “ビッグ4”と称されるノバック・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マレー(スコットランド)、ロジャー・フェデラー(スイス)、そしてラファエル・ナダル(スペイン)がテニス界を席巻してから、長い歳月が経過している。彼らの切磋琢磨はテニス界のレベルを引き上げファンを魅了したが、黄金時代を謳歌(おうか)しているその間に後続は引き離され、新勢力はベテラン勢の牙城を崩せずにいる。現在のトップ10の平均年齢は27.5歳。フェデラーも30歳を過ぎた昨年あたりから、さすがにファンの間でも若手の台頭を望む声が高まり、世界中のメディアは次代のスター探しに躍起になった。そのような潮流の中で、今最も注目を集める選手の一人が、錦織圭だ。今年5月末に、フランスのスポーツ紙『レキップ』が掲載した若手特集でも、錦織は「近い未来のトップ5」として大きく取り上げらている。

 6月24日に幕を開ける、テニスの聖地での2週間の戦い。ファンからの熱視線を背に受け、夢の成就に向け伝統のコートに向かう錦織は、今何を思い、何処を目指しているのだろうか? ここ10日間程の本人の言葉をつづりながら、彼の心の動きやウィンブルドンへの想いをたどってみよう。

錦織と芝コート「芝に慣れるのは簡単でない」

 赤土の全仏オープンから、青芝のウィンブルドンへ――。ボールの跳ね方から足元の感覚まで何もかもが正反対とも言える2つのグランドスラムは、わずか2週間を挟んで開催される。その2週間の過ごし方は選手によってさまざまで、より多くの大会に出場し実戦経験を積む者もいれば、公式戦には出ず練習での調整を好む者もいる。全仏で優勝したナダルや世界1位のジョコビッチなどは、今季は後者の道を選んだ。

 錦織が選んだのは、その中間だ。全仏の翌週にドイツのハレで開催された大会に出場し、残りは練習とエキシビションで芝仕様に仕上げていく。だが唯一出場したハレ大会では、初戦でミハイル・ユーズニー(ロシア)に1−6、7−6(4)、3−6で敗れてしまった。ユーズニーは、最終的に同大会の決勝に進み、決勝でもフェデラー相手にフルセットを戦ったほどの実力者。ドロー運が無かったと言えばそれまでだが、やはり、ボールが低く弾む芝の特性に順応できなかったのが最大の敗因だ。錦織も試合後に、芝への適応の難しさを口にした。

「僕にとっての1回戦(初戦はシードだったため、2回戦が錦織にとっての緒戦)の相手としては、ユーズニーは強かった。1セット目は様子を見る間もなく終わってしまいました。第2セット以降は良いプレーが出来てリズムが出てきたけれど、1〜2ポイントの差で大きく流れが変わってしまうのが芝。そこが悔やまれます」
 錦織が悔いるポイントとは、第3セットの勝負どころで飛び出した1本のミスショット。ボールが浮いたチャンスボールをフォアで叩いたが、ボールはラインを割ってしまった。このミスにも象徴されるように、この日の錦織はフォアのタイミングが合っていなかった。

「芝はバウンドが低いので、相手のショットに食い込まれてしまいました。フォアの精度にバラつきがあるので、調整していきたいです。芝に慣れるのは簡単ではないし、まだ上手くプレーが固まっていないところもある。もうちょっと練習が必要ですね」

 さらには、全仏でも抱えていた腹筋の痛みが、まだ錦織を悩ませていた。
「まだサービスは7〜8割で打っている状態。もうちょっと腹筋が治れば、スピードも上げていきたいんですが。痛みの原因ははっきり分からないので、ウィンブルドンの後にしっかり検査します。常に一定の痛みがあって、プレーすれば痛くなるし、やらなければ引く状況。
 来週は大会には出ないので、その分しっかりトレーニングして、ウィンブルドン1日目に照準を合わせたいです。この時期はどの選手も芝へのアジャストに苦労するし、自分もその一人。今日の結果は、あまり考え過ぎないようにしています」

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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