ザッケローニに必要な「勇気とバランス」=指揮官の決断が左右する日本の未来
パレードのようなデモが一転、流血の事態に
キックオフ2時間前、スタジアム付近で行われた反政府デモの行進。この時はまだ実に平和的な雰囲気だったのだが 【宇都宮徹壱】
無事にホテルに戻り、気になったのでネットで検索してみる。ちょうど日本対メキシコの試合が行われている最中に、反政府のデモ隊のメンバーと警察が衝突、12名の負傷者が出たというニュースを見つけて暗澹(あんたん)とした気分になった。実は試合開始の2時間前、スタジアムの周辺を散策している時に私はデモ隊の行列に遭遇している。もっとも、その時は暴力的な雰囲気など一切なく、むしろ非常に平和的で、音楽に合わせて踊りながら行進するパレードのようなものであった。中にはブラジル代表のユニフォームを着た参加者もいたので「ああ、政府のやり方には反対していても、みんなサッカーが大好きなんだな」と、のんきに考えていたのである。
こうしてホテルで原稿を書いている間にも、警察のヘリコプターが上空を旋回していたり、サイレンの音やら「ボン!」という爆発音やらが聞こえてきて気が気でない。とはいえ、私がやるべきことは、この日のメキシコ戦をきちんと振り返り、精査し、それを皆さんにお伝えすることである。日本にとってのコンフェデ杯が終わった今、この日の敗因を検証しないことには、チームもファンも(そして私自身も)しっかり前に進むことなどできまい。そんなわけで、いつものようにポイントを絞りながら、このメキシコ戦の問題点をあぶり出すところから始めてみたいと思う。
あくまでも「勝ちに行く」布陣だった日本
「勝ちに行く」布陣で敗れた日本。3連敗でグループリーグ最下位に終わった 【Getty Images】
試合の入り方は悪くなかった。イタリア戦に続いて、前線から積極的に仕掛けていたし、パスもよく通っていたし、それに合わせて周囲の動きもしっかり連動していた。前半10分、相手クリアボールから遠藤がミドルシュートを放ち、岡崎がヒールで流したシュートは、一瞬ゴールかと思われたがオフサイドの判定。リプレー映像を見ると、非常に微妙な判定だったと思う。これがもし決まっていたら、その後の展開もかなり違っていたものになっていたのではないか。
その後もしばらくは日本のペースで試合が進む。ポゼッションではメキシコがやや有利だったものの、シュート数では日本のほうが上回っていた。しかしそれも、前半残り10分くらいの時間帯から一気に逆転され、40分にはグアルダードのヘディングシュートが右ポストをたたき、終了間際にはサバラのブレ球ミドルシュートを川島がセーブで阻むなど、ヒヤヒヤした展開が続く。そしてエンドが替わった後半9分、グアルダードの左からのクロスに、エルナンデスがフリーで頭から飛び込み、ついにメキシコが先制。さらに後半21分、日本が2枚目の交代カードを切り(前田OUT/吉田IN)、マークの引き継ぎがあいまいになったところに、コーナーキックから再びエルナンデスにヘッドで決められ、2点差に広がってしまう。
もちろん、それでも日本は最後まで諦めずに戦っていた。後半41分には、香川のクロスを遠藤がダイレクトで中央に折り返し、最後は岡崎が右足インサイドで合わせて1点差に詰め寄る。そしてアディショナルタイム1分には、途中出場の内田篤人のファウルでPKを献上するも、川島がビッグセーブを見せてエルナンデスのキックを封じた(これが決まっていたら、屈辱的なハットトリックを許していた)。そうした奮闘があった一方で、本田が疲労で精彩を欠いたり、長友がけがで途中交代を強いられたり(後半32分)、頼りになる選手たちが軒並み機能不全となってしまった。結局、日本の反撃は岡崎の1点にとどまり、1−2で敗戦。日本はこのコンフェデ杯を3戦全敗で終えることとなった。