ザッケローニに必要な「勇気とバランス」=指揮官の決断が左右する日本の未来

宇都宮徹壱

パレードのようなデモが一転、流血の事態に

キックオフ2時間前、スタジアム付近で行われた反政府デモの行進。この時はまだ実に平和的な雰囲気だったのだが 【宇都宮徹壱】

 コンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)第3戦、日本対メキシコが行われたベロオリゾンテの会場「ミネイロン」から、メディアバスで中心街まで移動し、そこからタクシーでホテルを目指す。すでに宵闇(よいやみ)に包まれていた路地に、火の手が上がっているのに気づいて思わず目をむいた。よく見ると、ゴミや新聞紙が意図的に燃やされているようだ。小規模な放火は、その後もあちこちで見かけた。やがて、宿泊先に面したアマゾナス通りまで来ると、機動隊ががっちりと隊列を組んで警備している。ここから先はタクシーは通れないと判断して、ホテルまで徒歩で向かう。道すがら、割れたビンがあちこちに散乱し、何かを燃やした臭いが充満していて、ついさっきまで緊迫した状況だったことはすぐに理解できた。

 無事にホテルに戻り、気になったのでネットで検索してみる。ちょうど日本対メキシコの試合が行われている最中に、反政府のデモ隊のメンバーと警察が衝突、12名の負傷者が出たというニュースを見つけて暗澹(あんたん)とした気分になった。実は試合開始の2時間前、スタジアムの周辺を散策している時に私はデモ隊の行列に遭遇している。もっとも、その時は暴力的な雰囲気など一切なく、むしろ非常に平和的で、音楽に合わせて踊りながら行進するパレードのようなものであった。中にはブラジル代表のユニフォームを着た参加者もいたので「ああ、政府のやり方には反対していても、みんなサッカーが大好きなんだな」と、のんきに考えていたのである。

 こうしてホテルで原稿を書いている間にも、警察のヘリコプターが上空を旋回していたり、サイレンの音やら「ボン!」という爆発音やらが聞こえてきて気が気でない。とはいえ、私がやるべきことは、この日のメキシコ戦をきちんと振り返り、精査し、それを皆さんにお伝えすることである。日本にとってのコンフェデ杯が終わった今、この日の敗因を検証しないことには、チームもファンも(そして私自身も)しっかり前に進むことなどできまい。そんなわけで、いつものようにポイントを絞りながら、このメキシコ戦の問題点をあぶり出すところから始めてみたいと思う。

あくまでも「勝ちに行く」布陣だった日本

「勝ちに行く」布陣で敗れた日本。3連敗でグループリーグ最下位に終わった 【Getty Images】

 まずは日本のスタメン。GK川島永嗣。DFは右から酒井宏樹、栗原勇蔵、今野泰幸、長友佑都。中盤は守備的な位置に細貝萌と遠藤保仁、右に岡崎慎司、左に香川真司、トップ下に本田圭佑。そして1トップに前田遼一。ボランチの細貝は、累積警告で出場停止の長谷部誠に代わっての出場。センターバックの栗原については、「吉田麻也の体調が良くなかったから」(ザッケローニ)。さらに、右の酒井宏については、「よりハイプレーで強さを見せたかった。酒井宏はそれが保証できると思った」(同)。メキシコが前線と中盤に2人の長身選手(ヒメネスとサバラ。いずれも190センチ)を起用することを見越して、おそらくディフェンスラインに高さと強さを求めたのだろう。いずれにせよ、この日のスタメンは「控えのテスト」ではなく、あくまでも「勝ちに行く」布陣であった。

 試合の入り方は悪くなかった。イタリア戦に続いて、前線から積極的に仕掛けていたし、パスもよく通っていたし、それに合わせて周囲の動きもしっかり連動していた。前半10分、相手クリアボールから遠藤がミドルシュートを放ち、岡崎がヒールで流したシュートは、一瞬ゴールかと思われたがオフサイドの判定。リプレー映像を見ると、非常に微妙な判定だったと思う。これがもし決まっていたら、その後の展開もかなり違っていたものになっていたのではないか。

 その後もしばらくは日本のペースで試合が進む。ポゼッションではメキシコがやや有利だったものの、シュート数では日本のほうが上回っていた。しかしそれも、前半残り10分くらいの時間帯から一気に逆転され、40分にはグアルダードのヘディングシュートが右ポストをたたき、終了間際にはサバラのブレ球ミドルシュートを川島がセーブで阻むなど、ヒヤヒヤした展開が続く。そしてエンドが替わった後半9分、グアルダードの左からのクロスに、エルナンデスがフリーで頭から飛び込み、ついにメキシコが先制。さらに後半21分、日本が2枚目の交代カードを切り(前田OUT/吉田IN)、マークの引き継ぎがあいまいになったところに、コーナーキックから再びエルナンデスにヘッドで決められ、2点差に広がってしまう。

 もちろん、それでも日本は最後まで諦めずに戦っていた。後半41分には、香川のクロスを遠藤がダイレクトで中央に折り返し、最後は岡崎が右足インサイドで合わせて1点差に詰め寄る。そしてアディショナルタイム1分には、途中出場の内田篤人のファウルでPKを献上するも、川島がビッグセーブを見せてエルナンデスのキックを封じた(これが決まっていたら、屈辱的なハットトリックを許していた)。そうした奮闘があった一方で、本田が疲労で精彩を欠いたり、長友がけがで途中交代を強いられたり(後半32分)、頼りになる選手たちが軒並み機能不全となってしまった。結局、日本の反撃は岡崎の1点にとどまり、1−2で敗戦。日本はこのコンフェデ杯を3戦全敗で終えることとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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