世界で勝つための日本サッカーを再考する=メキシコやスペインを模倣する必要はない

小澤一郎

育成システムの特徴は「二重構造のピラミッド」

育成システムの特徴は「二重構造のピラミッド」。これが実を結んだメキシコは近年めざましい成長を遂げている 【Getty Images】

 残念ながらFIFAコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)2013の日本とメキシコの第3戦は、連敗でグループリーグ敗退同士の消化試合となってしまった。しかし、コンフェデ杯という貴重な公式戦の場でメキシコのような強豪国と対戦できる機会は貴重で、それは相手のメキシコにとっても同じ。そのメキシコと言えば、昨年のロンドン五輪準決勝で日本が1−3と敗れた国であり、ブラジルを倒して金メダルを獲ったことで世界のサッカーシーンで注目を浴びている。日本でも「メキシコのようなサッカーを目指すべき」という意見がたびたび出る国。そこで今回は、現在メキシコで活躍する日本人指導者と日本人選手に、金メダルという結果を下支えしたメキシコの育成とサッカーの特徴を聞いた上で、日本サッカーの方向性について再考してみたい。

 最初に話を聞いたのが、メキシコの強豪クラブの一つクルス・アスルの下部組織でコーチを務める西村亮太氏だ。すでにメキシコでの指導歴が4年目を迎える西村氏によると、ロンドン五輪で金メダルを獲った際、メキシコ国内では「ついにこの時が来た」という論調が大勢を占めていたという。長年、育成重視の姿勢で取り組んできたメキシコサッカー界の育成システムの特徴は「二重構造のピラミッド」だと、西村氏は説明する。1部のリーガMXは18クラブで構成されており、シーズンは前期(8月〜12月)と後期(1月〜5月)の2期制。1部18クラブにはワールドカップ(W杯)のあるU−20とU−17のカテゴリーのチーム保有が義務付けられ、そのU−20、U−17のチームはトップチームと同じ1部18クラブ、年間スケジュールでリーグ戦を戦うことになる。

 基本的にU−17チームまではプロ部門で、トップチームを頂点とした1つのピラミッドが形成される。一方で各クラブは、トップチーム直結ではないセミプロとアマチュア混同のピラミッドも作っており、頻繁に選手を入れ替えながら選手間の競争を促している。
 また、シーズンによって実施の有無があるものの、基本的に1部リーグには「20歳11カ月以下の選手を前期、後期それぞれで累計1000分以上起用させなければいけない」というレギュレーションが存在する。こうした分厚い若手育成システムや制度によって、金メダルを獲得したロンドン五輪世代が育ってきた。例えば、MFハビエル・アキーノも一度はエリート街道であるプロ部門のピラミッドから外れた選手ながら、別のピラミッドで再び頭角を現し今やA代表の中心選手にまで成長した。

年間50試合ほどの海外遠征を組む

 続いて話を聞いたのは、1部モナルカス・モレリアのU−20に所属する佐藤令治という20歳の日本人選手だ。JFAアカデミー福島の1期生でもある彼は、アカデミーを卒業後にメキシコに渡り、外国人枠が1枠しかないU−20リーグの中でも強豪として知られるモレリアのトライアウトに見事合格。今年1月のコパ・メヒコ(カップ戦)でトップデビューを果たすなど、海外で着実に進化を遂げている。チームメートや一つ下のU−17にアンダーエイジのメキシコ代表選手もいるという佐藤が「驚いた」と述べるのは、U−20、U−17のメキシコ代表の海外遠征、国際試合の数の多さ。「U−17代表のチームメートがいるのですが、昨シーズンほとんど見なかった」と語るように、所属クラブでの活動が数週間しかないほどアンダーエイジのメキシコ代表は活発な活動スケジュールを組んでいる。

 この点について西村氏は、「メキシコ人の内弁慶な国民性、弱いメンタルを解消することにつながった」と補足する。以前のメキシコ代表に比べると「多くなった」とはいえ、いまだ半数以上が国内組のメキシコは昔から「欧州に行って欧州の強豪国とプレーすると萎縮することがあった」ようで、だからこそ「メキシコサッカー協会の先導でU−17代表が年間50試合ほどの海外遠征を組む」のだという。今や世界の強国相手にも名前負け、萎縮することなく堂々とメキシコらしいサッカーで挑み、ロンドン五輪決勝のブラジル戦のような内容で結果を得ることができるようになったのも、育成年代からの地道な海外遠征と努力が実を結んだからだ。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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