世界で勝つための日本サッカーを再考する=メキシコやスペインを模倣する必要はない
育成システムの特徴は「二重構造のピラミッド」
育成システムの特徴は「二重構造のピラミッド」。これが実を結んだメキシコは近年めざましい成長を遂げている 【Getty Images】
最初に話を聞いたのが、メキシコの強豪クラブの一つクルス・アスルの下部組織でコーチを務める西村亮太氏だ。すでにメキシコでの指導歴が4年目を迎える西村氏によると、ロンドン五輪で金メダルを獲った際、メキシコ国内では「ついにこの時が来た」という論調が大勢を占めていたという。長年、育成重視の姿勢で取り組んできたメキシコサッカー界の育成システムの特徴は「二重構造のピラミッド」だと、西村氏は説明する。1部のリーガMXは18クラブで構成されており、シーズンは前期(8月〜12月)と後期(1月〜5月)の2期制。1部18クラブにはワールドカップ(W杯)のあるU−20とU−17のカテゴリーのチーム保有が義務付けられ、そのU−20、U−17のチームはトップチームと同じ1部18クラブ、年間スケジュールでリーグ戦を戦うことになる。
基本的にU−17チームまではプロ部門で、トップチームを頂点とした1つのピラミッドが形成される。一方で各クラブは、トップチーム直結ではないセミプロとアマチュア混同のピラミッドも作っており、頻繁に選手を入れ替えながら選手間の競争を促している。
また、シーズンによって実施の有無があるものの、基本的に1部リーグには「20歳11カ月以下の選手を前期、後期それぞれで累計1000分以上起用させなければいけない」というレギュレーションが存在する。こうした分厚い若手育成システムや制度によって、金メダルを獲得したロンドン五輪世代が育ってきた。例えば、MFハビエル・アキーノも一度はエリート街道であるプロ部門のピラミッドから外れた選手ながら、別のピラミッドで再び頭角を現し今やA代表の中心選手にまで成長した。
年間50試合ほどの海外遠征を組む
この点について西村氏は、「メキシコ人の内弁慶な国民性、弱いメンタルを解消することにつながった」と補足する。以前のメキシコ代表に比べると「多くなった」とはいえ、いまだ半数以上が国内組のメキシコは昔から「欧州に行って欧州の強豪国とプレーすると萎縮することがあった」ようで、だからこそ「メキシコサッカー協会の先導でU−17代表が年間50試合ほどの海外遠征を組む」のだという。今や世界の強国相手にも名前負け、萎縮することなく堂々とメキシコらしいサッカーで挑み、ロンドン五輪決勝のブラジル戦のような内容で結果を得ることができるようになったのも、育成年代からの地道な海外遠征と努力が実を結んだからだ。