菊池雄星ついに覚醒!今季勝てる3つの理由

中島大輔

銀仁朗が感じたマウンドの変化

交流戦終了時点でリーグ2位の7勝、同トップの防御率1.41の成績を収めた菊池。今季、菊池が勝てるようになった訳とは? 【写真は共同】

 18.44メートル先のマウンドからキレの良いボールを投げ込んでくる菊池雄星(埼玉西武)について、捕手の炭谷銀仁朗は昨季と明確な違いを感じている。
 ターニングポイントになったのが、3月23日に行われたオープン戦の横浜DeNA戦だ。ワールド・ベースボール・クラシックから帰ってきた炭谷は、3月30日の開幕2戦目に向けて調整してきた菊池に対し、以前から気になっていたことを聞いた。

「試合中、何も言わん方がええか?」

 昨季、イニングの合間にフォームや配球などについて菊池に話しかけると、その後、どこか投げにくそうにしている姿を女房役の目は捉えていた。細かい指摘をやめた方がいいかと問いかけると、菊池は「はい!」と即答した。このやり取りを境に、菊池のマウンドでの様子が変わったと炭谷は言う。
「僕が何かを言うと、いろいろ考えすぎちゃうんでしょうね。だから、フォームがどうこう言うのはやめました。もちろん大事なことは言いますよ。でも、配球などの反省は試合が終わってからでいい。言うのをやめてから、のびのび投げている感じがします」

長所の思考力でたどり着いた投球哲学

 菊池の長所は、投球の細部まで考えを巡らせる思考力にある。「今年は真っすぐの球速も出ているし、球の質自体も良い」と渡辺久信監督は評しているが、キレのあるストレートを投げられている理由は、頭脳の意図を身体が的確に実行できているからだ。
 現在のフォームはスリークオーターだが、今季のオープン戦からサイドスローのつもりで投げているという。
「スリークオーターの意識だと、オーバースローになってしまいます。だから意識として、サイドで投げると考えているんです。スリークオーターだと、外旋が一番効くので。今は外旋をうまく使えています」
 外旋とは、肩関節や股関節を外にひねる行為だ。菊池の言う「外旋が効く」という表現は、ボールをリリースするまでの一連の動作で肩に力をためられていることを意味する。簡単に説明するなら、弓を引いて矢を離すまでの動きを思い浮かべてほしい。弓を引っ張る際にうまくためを作ることができれば、ポンっと離したときに矢は勢い良く飛んでいく。
 菊池はさまざまに思考を巡らせ、この投球哲学にたどり着いた。論理的に考え、その通りに身体を動かせるのが彼の強みだ。
 一方、「自分は考え過ぎるタイプ」と菊池は自己分析している。だから「頭に頼るのではなく、感覚でできればいい」と意識している。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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