ソフトB長谷川を交流戦MVPに導いた打撃改造

田尻耕太郎

交流戦史上最高の打率4割1分8厘

長谷川は「ひと昔前」の動きながらリズムを取る打撃フォームで、交流戦首位打者を獲得。現在、パ・リーグの打率、最多安打でもトップに立つ 【写真は共同】

 打率4割1分8厘は交流戦史上最高打率。福岡ソフトバンクの長谷川勇也が、6月19日に発表された交流戦MVPに輝いた。
 交流戦打撃ランキングの上位3人を独占したソフトバンクにあって、これまでセ・パ両リーグで首位打者を獲得した実績のある内川聖一(交流戦打率3割8分5厘で2位)さえ寄せ付けなかった長谷川。彼の語る独特のバッティング理論がじつに興味深い。

 もともと能力には定評があった。プロ2年目の2009年にはパ・リーグ4位の打率3割1分2厘をマークしている。特に夏場以降に強いのが特徴だ。
2010年8月 月間打率3割1分
2011年9月 月間打率3割4分6厘
2012年8月 月間打率3割5分4厘
 しかし、昨シーズンまでの3年間では打率3割を達成したシーズンは一度もない。裏を返せば、開幕ダッシュにいつも失敗していたのだ。それは長谷川のレッテルとなり、「もったいない」という言葉が常に付きまとうのだった。

あえて挑戦した「ひと昔前」の打撃理論

 今シーズンに向けて、長谷川は大きなチャレンジをした。まずは調整を前倒しした。「例年、1月はランニングやウエートなど体力づくりがメーンで、打撃をつくるのは2月のキャンプから」だったが、それらをすべて1カ月早めた。昨年末からしっかりトレーニングに励み、1月の自主トレではとにかくバットを振り込んだ。

 そして、もう一つの挑戦は、バッティングフォームの大改造だった。昨季までと今年の違いは一見すれば明らか。以前はピタッと止まって構えたところからトップをつくってスイングしたのだが、今シーズンの打撃は構えたところでの動きがやたら多い。体を止めることなく、ボールを呼び込み、その中でリズムをとっている。
「昨季終盤の打撃を振り返った時に、一二塁間を抜けると思った打球が全部ファーストゴロになっていた。それが疑問点で、なぜなのかを考えたときにボールとの距離感が違うのかなと思ったんです。自分が少し動く中でボールを呼び込んだ方が、距離が取れるのでは……」

 どちらかといえば、現在の主流は以前の長谷川がやっていたような、打席では無駄な動きをなくすのを良しとされる。一つは頭が動いてしまうと、それだけボールの見方が悪くなると考えられるからだ。しかし、長谷川は「昔の野球選手はみんな動いて待っていた」と、あえて古い動画をパソコンで探し出して研究したという。誰のどのような動画を見たのか知りたかったが、「記憶が定かではない(苦笑)」のがザンネンだ。

「鷹の求道者」「鷹のソクラテス」

 今年2月のキャンプ。長谷川の打撃の状態は、素人目から見ても明らかに仕上がっていた。シート打撃ではホームランを打つと、回る必要のないベースを一周してガッツポーズまでしてみせた。長谷川はどちらと言えば地味なキャラなので、珍しい姿だなと驚いた。「例年よりは感覚が良いと感じていました」という自信の表れだった。
 その後アクシデントに見舞われたが、何とか乗り越えた。キャンプ終盤、外野での打球の捕球中、足元に転がっていたボールを拾おうした際にフリー打撃の打球が額を直撃した。歩いてベンチ裏には下がったが、診断は前頭部陥没骨折。一時は開幕1軍が絶望視された。それでも、「野球をするのに問題ない。打席で当たったわけでもないから恐怖心もなかった」と特殊なパットをつけてプレーを再開し、開幕から現在までフルイニング出場を続けている。

 今シーズンの月別成績も、3月は3試合ながら打率5割5分6厘の好スタート。4月は2割6分5厘とやや低迷したが、5月に3割6分2厘とすぐに息を吹き返し、6月は何と4割3分5厘も打っている(19日現在)。
 交流戦最終戦の巨人戦(6月16日、ヤフオクドーム)も3安打締めだった。しかし、試合後は「今は4割を打つ人のスイングではない」と厳しい。優勝を決めた13日(東京ヤクルト戦)、試合後のセレモニーを終えると、すぐに素振り部屋に直行してスイングの確認を行った。結果が出る、出ないにかかわらず、本拠地の試合後はすぐにバットを振ってチェックをするのがずっと習慣になっている。打撃理論にしても、一旦火がついて話し出したら止まらない。相手が女性リポーターで明らかに難しい話は分からないであろうが、構わず「ミリ単位」の技術論を語ってしまう。それゆえ、「鷹の求道者」やスポーツ紙では「鷹のソクラテス」などと呼ばれている。

 現在はパ・リーグ打撃成績でも打率3割4分3厘と86安打で打撃二冠に立っている。さらなる勲章を目指す長谷川に、大好きな夏がまもなくやってくる。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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