ウルグアイの「最後まで戦う姿勢」に思う=コンフェデ杯通信2013(6月16日)

宇都宮徹壱

ブラジリアからレシフェへ

レシフェのホテル周辺の様子。街は不穏な空気に包まれていて撮影には注意を要する 【宇都宮徹壱】

 4日間にわたるブラジリアでの滞在を終えて、次の目的地レシフェに向かう。その過程で私は、2つの貴重な教訓を得ることとなった。

 この日、私が乗る飛行機は10時11分発(ブラジルの国内線は、なぜかスケジュールが分刻みである)。国内線のボーディングタイムはだいたい30分前だが、いちおう余裕を見て8時30分には空港に到着した。するとチェックインカウンターは、めまいがするくらいの長蛇の列。ブラジリアの国内線は、いつもこんなに混雑するのか、それともセレソン(ブラジル代表の愛称)の試合の翌日だからか。いずれにせよ、チェックインカウンターにたどり着くまでに、ゆうに1時間は要した。幸い、早めに到着したので事無きを得たが、国内線だからと言って油断は禁物。遅くとも2時間前には空港に到着しておいたほうが賢明のようだ。

 もうひとつの教訓は、搭乗ゲートに関するものである。チェックインカウンターで受け取ったチケットには、搭乗ゲートが「10」と記されてあった。やれやれ一安心と10番ゲート付近のソファーでくつろいでいたら、ブラジル在住の経験がある同業者Sさんに「搭乗ゲートが9番に変わりました。急いで!」と教えられ、慌てて移動する。「この国では、チケットに印字された情報を信じちゃいけません。常に状況は変わりますから」とSさん。なるほど、それがこの国での処世術なのか、などと妙に納得しながら離陸の時を迎える。

 さて、19日の日本対イタリアの会場となるレシフェは、ペルナンブーコ州の州都で、大西洋にせり出した港湾都市である。人口、およそ155万人。かつては奴隷貿易の拠点で名を馳せたそうだが、最近では治安の悪さでつとに有名である。外務省のホームページでも注意喚起が出ていたし、ウィキペディアの記述によれば「住民100,000人につき69.4件の殺人が起こっており(中略)ブラジルの平均の2倍ほどである」のだそうだ。

 なるほど確かに、タクシーの車窓から街並みを観察してみると、家々の塀には有刺鉄線が張り巡らされ、男女問わず半裸で歩いている人が妙に多い。ブラジリアから空路2時間ながら、まるで異国に来たような感覚だ。ブラジル・ビギナーとしては今さらながらに、最初の入り口がブラジリアで本当に良かったと思う。ここレシフェがスタート地点であったなら、ブラジルという国の見方も、ずい分と異なっていたことだろう。

欧州王者vs.南米王者の好カードで見えたもの

試合会場のアレナ・ペルナンブーコ。4万6000人収容の立派な施設だが中心街から遠い 【宇都宮徹壱】

 この日、レシフェの会場、アレナ・ペルナンブーコでは、日本のグループとは反対側のグループB初戦が行われることになっていた。カードはスペイン対ウルグアイ。欧州チャンピオン(兼ワールドカップチャンピオン)と南米チャンピオンによる、実に興味深い顔合わせだ。メディアホテルから出ているシャトルバスに揺られること1時間。ずい分とアクセスの悪いスタジアムではあるが、この試合を観ておいて本当に良かったと思う。

 ポゼッションのスペイン、カウンターのウルグアイ、という構図は予想通り。スペインはいつものように、小気味良くパスを回しながら、じっくりと相手のスペースとギャップをうかがっている。しかし、ただボールを回しているだけではない。局面、局面では、しっかり戦っているのだ。背後からプレッシャーを受けたときには、動じることなく正確にボールをコントロールし、ボールをさらした状態で相手と向き合ったときには、決してボールを奪われることなく巧みにコントロールして次の局面を作っている。

 前半15分の時点で、FIFA(国際サッカー連盟)のスタティスティックスはスペインのポゼッションを86%とはじき出した。こうなるとゴールは時間の問題。20分、ウルグアイのクリアボールをペドロがボレーで蹴り込み、これが相手DFの足に当たってコースが変わってゴールイン。2点目も、お手本のようなゴールだった。セスク・ファブレガスがペナルティーエリア前でボールを持ち、右に走り込むペドロにパスを送ると見せかけて、絶妙な切り返しから中央のロベルト・ソルダードにスルーパス。これを落ち着いて決めたソルダードも素晴らしいが、3人のDFを引き寄せたペドロの動きと、セスクの瞬時の判断力もまた素晴らしかった。

 この前半の2点で勝負は決したかに思われたが、その後のウルグアイの健闘ぶりには目を見張るものがあった。彼らは相手の圧倒的な強さに戦意を失うどころか、むしろさらに勝利への執念を前面に押し出すようになる。ボディーコンタクトは激しさを増し、試合が止まる時間帯も頻発。後半はややこう着した時間帯が増えたものの、それだけ両者の闘争心がぶつかり合って息を飲むような展開が続く(この試合をジャッジした西村雄一主審も、いろいろ神経を遣ったことだろう)。そして終了間際の後半43分、ルイス・スアレスがFKを直接ゴール左隅に突き刺し、ウルグアイが1点差に詰め寄るも、反撃もそこまで。最後はスペインが2−1で逃げ切りに成功した。

 この試合、スペインの強さを兼ね備えたポゼッションサッカーは、確かに日本が目指すべきものであったのかもしれない。しかし一方で、前日の日本に最も欠けていたものを、ウルグアイが明確に見せていたことについても留意すべきであろう。それは「最後まで戦う姿勢」に他ならない。果たして、ブラジル戦の日本は「最後まで戦う姿勢」を貫いていただろうか。相手のカウンター対策ばかりに腐心して受け身に回り、結果として「日本らしさ」の片りんも見せることができなかったことが、今さらながらに悔やまれてならない。3日後、ここレシフェでイタリアと相対する日本は、戦術以前に「戦う集団」であってほしい。そう、切に願う次第だ。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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