サトウ新体制で初勝利 変わりはじめた男子バレー=指揮官が掲げた3つのテーマ

米虫紀子

見え始めたスマートバレー

越川(写真)、福澤、八子ら攻撃陣の、巧みなプレーも光った 【坂本清】

 小牧大会の2連戦は、サイドからスマートな攻撃ができたことも勝因の一つだった。サーブレシーブを崩されても、そこから丁寧に二段トスを上げ、アウトサイドの越川や福澤、オポジットに入っている八子大輔(JT)が、ブロッカーの指先や外側の手を狙うなど巧みにブロックアウトを奪ったり、リバウンドを取ってしつこく攻め直す場面が多く見られた。サトウ監督は、「スパイカーが、その場に応じた一番良い判断をできていた。いわゆるスマートバレーができていたということに非常に満足しています」とうなずいた。
 そうしたスマートな打ち方を実行するために、今の全日本で大前提となっているのが、スパイカーの打点や技量をフルに生かせるトスだ。昨年までの全日本はトスの速さにこだわってきたが、今やろうとしていることはある意味その対極にある。セッターには、スピードよりもまず、スパイカーが自分の一番高い打点で打てて、コースを打ち分けやすいようネットからある程度離れたトスが要求される。
 なおかつスパイカーは、サイドからスパイクを打つ時、これまでのようにサイドラインギリギリの位置ではなく、一歩コートの内側に入って打つことに取り組んでいる。サイドライン際で打つと、トスが短かった時にクロスにしか打てないなど、打つコースがトスに左右されやすいが、1mほど中に入ることで打てる幅が広がるからだという。相手ブロックがつきやすくなる恐れはあるが、スパイカーに一番良い状態で打たせることを優先し、スパイカーの技量に任せるという考え方だ。

「今まではサーブレシーブが多少乱れた時に、スピードだったりコンビだったり、自分たちで難しくしてしまうケースが多かった。その点ゲーリーは、まずシンプルに、スパイカーの能力を最大限に生かせるトスを上げることを重視して取り組んできて、それが良い形で表れました」と福澤は胸を張った。

連勝がもたらした大きな意味

途中出場ながら起用に応えるプレーを見せた石島(左) 【坂本清】

 小牧大会では、ワールドリーグ開幕前に指揮官が掲げた3つのテーマのうち2つで大きな進歩が見られたことになる。ただ、あと1つのサーブレシーブについては苦労しているようだ。
 サトウ監督はサーブレシーブのルーティーンを細かく決め、手を伸ばせば届く範囲は、極力足を動かさず、腕を体から離して取るよう指導している。

「日本の選手はサーブレシーブの時の動きが多い。国際大会になると非常に速く強いサーブがくるので、あまり動いていると間に合わない。だから下半身はどっしりと構えて、すばやく手を動かすやり方を練習しています」(サトウ監督)

 合宿中のサーブレシーブ練習では、2つのコートに分かれ、そのうち1つのコートには選手が1人ずつ順番に入ってサーブを受け、すぐ横にデービッド・ハントコーチがついてマンツーマンでフォームをチェックする徹底ぶりだった。しかし、足を動かしてボールの正面に入るようずっと指導されて育った日本の選手が、新しい方法に慣れるには、まだ時間がかかりそうだ。

 また、ブロックなどまだほとんど手を付けられていない部分も多い。新チームが始動してまだ1カ月足らず。今は監督が一つ一つ順を追って提示する課題を、選手たちが消化しようとしている段階だ。フィンランド戦ではオポジットとして途中からコートに入り、起用に応えた石島雄介(堺)は、「まだ頭でも完全には理解しきれていないし、体はもっと理解できている部分が少ない。まずはしっかり理解して、それを無意識に試合で体現できるようになったら、ゲーリーの要求もまたさらにステップアップしていくんじゃないかなと思っています」と言う。

「もっと期待を!」福澤(左から2人目)は試合後、観客席に向かって呼びかけた 【坂本清】

 選手たちが信じて走り続けるために、この連勝は大きな意味がある。福澤はこう表現した。
「やっているプロセスは間違っていなくても、負けがこむとどうしても迷いが出てしまう。だからこの勝利は、今やっていることは間違っていない、このまま続けていけばもっと結果が出るんじゃないかと思えたゲームだった。新たな一歩を踏み出すことができたんじゃないかと思います」

 ワールドリーグは今年からルールが変わり、18チームが3つの組に分かれて予選ラウンドを戦っているが、日本は世界ランキング下位のチームで構成されるC組に入っている。その中でようやく手にした勝利。上を見れば、世界にはまだまだはるかに力のあるトップチームが数多くそびえている。それでも、日本代表の変化と、今後に向けての大きな可能性を感じさせる2連勝だった。

 初勝利のコートインタビューの最後、いつもは冷静に語る福澤が、高揚感を抑えきれずに、空席の目立つスタンドに向かって大声でこう呼びかけた。

「もっと僕たちに期待してください!応援してください!」

 変わりはじめた、強くなりつつある自分たちの姿を、もっと多くの人に見てほしいという、心からの叫びに聞こえた。

<了>

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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