遠藤の不調で再び懸念される後継者問題=ブラジル戦で露呈した厳しい現実

元川悦子

イージーなパスミスをたびたび繰り返す

イージーなパスミスを繰り返すなど、ブラジル戦の遠藤は、本調子とはほど遠かった 【Getty Images】

 ホスト国・ブラジル代表のキックオフで始まった現地時間15日のFIFAコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)開幕戦。日本代表の攻撃を司るMF遠藤保仁が開始早々の2分、相手の攻守の要であるパウリーニョに激しいスライディングタックルをお見舞いした。日ごろ、感情を表に出さない彼がいきなり闘争心を前面に押し出すというのは実に珍しい。国際Aマッチ131試合という日本歴代最多キャップ数を誇る大ベテランも、サッカー王国とのアウエー戦に特別な思いを秘めていたのだろう。

 ところがその1分後、ブラジルの若きエース・ネイマールの目の覚めるような一撃が決まり、日本は最悪の展開を余儀なくされる。「前半は我慢しながらやって失点せずにいこうと思っていたんで、立ち上がりの失点は非常に残念だった」と遠藤本人も少なからず失望感を覚えたようだ。

 こうしたメンタル面のショックに加え、11日のワールドカップ(W杯)アジア最終予選・イラク戦が行われたドーハからの長距離移動と中3日の超過密日程が響いたのか、そこからの遠藤はイージーなパスミスをたびたび繰り返す。ブラジルも日本のダブルボランチのところにはあまりプレッシャーをかけて来ず、彼と長谷部誠は比較的フリーでボールを持てた。にもかかわらず、簡単に失ってしまうのだから、日本らしい攻撃リズムはどうしても生まれない。

 前半19分に本田圭佑が中央付近から倒れ込みながら強引にシュートを打つチャンスを鋭い縦パスでおぜん立てしたり、長友佑都や香川真司の攻め上がりの起点となるボールを出すなど、遠藤らしい配球を見せるシーンは確かにあった。しかし、前半はやはりミスの方が目立ったと言わざるを得ない。「中盤のミスがブラジルより明らかに多かった」とガンバ大阪の盟友・今野泰幸も指摘していたが、この日の遠藤は彼らしいリズムに乗り切れなかった印象が強い。

「パスミスが出るのは受け手と出し手の関係。もうちょっと出し入れしながら相手を動かして逆を突くように工夫しないと、相手は一発ではやらせてくれない。いい距離感でやれているときはバイタルエリアを使えている。多少のプレッシャーの中でもそういうふうにできるようにしないといけない」と、遠藤は選手同士の距離感の問題が大きな要因だったと説明した。

低調ぶりを懸念する声も少なくない

 もちろん、そういう側面はある。だが最近、彼個人の低調ぶりを懸念する声も少なくない。イビチャ・オシム、岡田武史監督時代から休むことなく代表とJリーグを掛け持ちしてきた彼も33歳。今回は猛暑のイラク戦でキャプテンマークを巻き、フル出場してブラジルへ乗り込んできたのだから、目に見えない疲労がたまっていて当然だ。今季からプロ人生初となるJ2でのプレーを強いられていることも、微妙な感覚のずれを引き起こしている要因かもしれない。「伝家の宝刀」と言われたリスタートも以前より精度を欠き、得意中の得意であるはずのPKも3月のヨルダン戦(アンマン)でミスするなど、不安要素は確かに少なくないのだ。

 チーム最年長プレーヤーのこうした不安定さも影響し、前半45分間は日本らしいパスサッカーが全くと言っていいほどできなかった。「いつまでウオーミングアップしているんだ。チャレンジしないといけないだろう」と普段は物腰柔らかいアルベルト・ザッケローニ監督も声を上げずにはいられなかったようだ。そんな指揮官に反応すべく、後半開始早々の選手たちは攻めに出る姿勢を鮮明にした。

 しかし、またも立ち上がりの3分、ダニエウ・アウベスの右クロスからパウリーニョに2点目を奪われてしまう。この失点は致命的だったと言わざるを得ない。遠藤も「この2点目は非常に大きかった。あきらめる選手は誰もいなかったけど、アウエーの中での失点は極力減らさないといけなかった」と反省の弁を口にした。

 そこからザック監督は前田遼一らを投入して反撃に打って出たが、流れはほとんど変わらない。遠藤も足が止まり、公式戦では昨年11月の最終予選・オマーン戦(マスカット)以来の途中交代を強いられる。決戦前日に「敵地でのブラジル戦は本当に楽しみしかない」と遠藤が心待ちにしていた大一番は、とてつもなく大きな実力差ばかりを突き付けられる厳しい結果となった。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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