完敗招いたザックに3つの提案=残り2試合を有効活用するために

宇都宮徹壱

祝祭ムードの中で開幕したコンフェデ杯だが……

続々と集結するカナリア軍団。こんなに多くのブラジルサポを見るのは3年ぶりだ 【宇都宮徹壱】

 上空を旋回するヘリコプターのホバリングの音で目が覚めた。6月15日、いよいよFIFAコンフェデレーションズカップ(コンフェデ杯)2013が、ブラジルの首都・ブラジリアのナシオナル・スタジアムで開幕する。こちらに到着した3日前から、地元テレビは大会の事前情報を盛んに流していたが、現地の大会への期待感はこちらが想像していた以上だ。開幕前夜も、各地からブラジリアに乗り込んできたと思しきファンたちの気勢を上げる声が、深夜まで街中に響いていた。

 昼前に徒歩でスタジアムに向かう。キックオフ4時間前にもかかわらず、あちこちで日差しを浴びてまばゆく輝くカナリア色のユニホーム姿の人々を見かける。これほど多くのブラジルサポーターを目にするのは、3年前の南アフリカ以来のことだ。ただし、彼らが身につけているのは、ナショナルチームのユニばかりではない。サンパウロの白、フラメンゴの赤と黒、そしてパルメイラスの緑、などなど。日本代表のホームゲームだと、Jクラブのユニを着た人はほとんど見かけることはないが、その点ブラジルはかなり自由な印象を受けた。愛するクラブがあって、代表がある。そんな当たり前のことが、ここブラジルでは少しばかり粋に思えてしまうから不思議だ。

 とはいえ、皆が皆、このコンフェデ杯の開幕にウェルカムというわけではなかった。この日のために歩行者に開放されたスタジアムに向かう大通りでは、コンフェデ杯とワールドカップ(W杯)に反対するデモの集団に遭遇した。ざっと見たところ500人くらいはいただろうか。横断幕に書かれた文字を拾い、あとで検索をかけてみると、どうやら彼らの主張は「スタジアムを作る金があったら、もっと教育や医療を何とかしろ!」というものらしい。私が見たデモはまだ平和的であったが、試合後に中田徹さんのコラムを読んで、催涙ガスが打ち込まれて逮捕者が出たことを知った。華やかな祭典の裏側に、地元住民の苦悶(くもん)が存在することを、恥ずかしながらこのとき初めて知った次第である。

ネイマールのゴールでブラジルの優位は決した

開始わずか3分、ネイマール(左)のスーパーボレーが決まった時点でブラジルは勝利に近づいた。香川はなすすべなし 【Getty Images】

 さて、0−3という完敗に終わった、この試合。敗れたこと自体が残念であったが、それ以上に残念だったのが「日本らしさ」をほとんど披露することなく、それゆえ世界に対してインパクトを残すこともなく、単なるブラジルの「やられ役」に終わってしまったことである。取り急ぎ、試合の流れを振り返ることにしたい。

 この日の日本のスタメンは以下の通り。GK川島永嗣、DFは右から内田篤人、吉田麻也、今野泰幸、長友佑都。中盤は守備的な位置に遠藤保仁と長谷部誠、右に清武弘嗣、左に香川真司、トップ下に本田圭佑。そして1トップに岡崎慎司。意外だったのが、1トップに前田遼一ではなく、今年2月のラトビア戦以来となる岡崎の起用であった。この点についてザッケローニ監督は「相手のディフェンスラインの特徴を考えた上で、彼が適任だと考えた」と語っている。チアゴ・シウバとダビド・ルイスという、世界的にも極めて強固なセンターバックコンビにガチンコで挑むよりも、その裏を突くことにポイントを絞った方が勝機を見いだせると指揮官は考えたのであろう(その後、後半6分に清武を下げて、前田の1トップに戻ってしまうのだが)。

 一方でディフェンス面では、できるだけ0−0の状況を長引かせることを念頭に置いていた。それは「僕らのプラン的には、体を張りながら0−0で状況を長くして相手を焦らせたかったのはありました」という今野のコメントからも明らかだ。ところが、このプランは開始早々にあっけなく崩れてしまう。前半3分、左サイドのマルセロから、矢のように鋭いクロスが打ち込まれる。これをフレッジが胸で落とし、ワンバウンドしたボールをネイマールが右足ボレーでゴール右隅上にたたき込む。川島も精いっぱいのセービングを試みるが届かず、早々にブラジルが先制ゴールを挙げる。

 このネイマールのゴールによって、残り87分のブラジルの優位は決定付けられたと言っても過言ではないだろう。勝利への過度のプレッシャー、そしてエースの沈黙。それらの懸案事項が同時に、しかも早々に払拭(ふっしょく)されたことで、その後のブラジルはかなり余裕を持ってゲームをコントロールすることができた。前半のブラジルのポゼッションは64%を記録したが、後方でゆっくりボールを回しながら極力リスクを回避していたことは留意すべきである。対する日本は、積極的にシュートを放っていた本田を除いて、すっかりプレーに自信が失われ、本来の出来からほど遠いミスを連発。前半のブラジルにしてみれば、前半は1点のリードで十分であった。

 そして後半3分、ブラジルが追加点を奪う。ダニエウ・アウベスの右からのクロスにパウリーニョがワントラップから反転してシュート。吉田の寄せも川島のセーブも実らず、ボールは日本のゴールネットを揺さぶる。1点目同様、相手の出はなをくじくタイミングで、それほど手数をかけずにきっちり決める。ブラジルの攻撃は、いやらしいまでに効率的だ。対する日本は、2点を失っても決して意気消沈することはなかったものの、後半25分を過ぎてから目に見えて運動量が落ちていく。そしてアディショナルタイム3分、カウンターからオスカルのスルーパスに、途中出場のジョーが川島の股間を抜くゴールを決めて3−0。結局、これがファイナルスコアとなった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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