川内優輝を強くした5つのマイルール=手記・後編

構成:スポーツナビ

フルタイムで働きながら、独自の練習方法で結果を残してきた川内優輝が実践する5つのマイルールとは!? 【写真は共同】

 フルタイムで働きながら、日本男子マラソン界の第一線で活躍する異色の“公務員ランナー”川内優輝。今年2月の別府大分毎日マラソンで優勝し、4月に自身2度目となる世界選手権(8月、モスクワ)のマラソン代表に選出された。

 川内は、試合を利用して練習を積む独自の練習方法で知られている。その有効性を自らの走りで証明してきた今、マラソンランナー育成の常識や練習の取り組み方についてどう考えているのか。川内が自らの言葉で、実際の練習方法やその背後にある考え方を語った。

(1)オーバートレーニングはしない

 多くの選手は練習をし過ぎていると思います。マラソンは「距離が長いから走行距離をとにかく追えばいい」という競技ではないと思います。人間は機械ではないので限界を超えたら必ず壊れます。多くのマラソン選手は月間1000キロを超えるような走り込みを行ないますが、私は普段は月間550キロ、走り込む月であっても800キロ弱です。オーバートレーニングは故障と紙一重であり、一度故障の悪循環にはまるとなかなか抜け出せず、通年練習が組みにくくなってしまいます。そのため「腹八分目の練習」を継続していくことが大きな故障をせずに継続した通年練習を可能にし、オーバートレーニング以上の練習効果をもたらすのだと思います。

(2)メリハリをつけて練習する

 多くの選手には「メリハリ」が足りないと思います。
 まず、ポイント練習(強度の高いトレーニング)が多過ぎる。私の場合、走り込みの合宿時以外でのポイント練習は週2回だけで、残りの5日間は全てジョグ(ゆっくり走ること)です。強豪校でよく見られるような、ペース走(決められた距離を一定の速さで走る練習)のペースが1キロ3分30秒でジョグのペースが4分という状況では、ジョグのペースが速過ぎて「体の芯の疲労」が抜けていかないと思います。また集団ジョグというのも「精神的疲労蓄積の原因」になると思います。

 基本的にはポイント練習以外のジョグの日は「ポイント練習とポイント練習のつなぎ」という意識で走るべきですが、集団ジョグでは気を抜くことができず、最後は競争のようになってしまって、うまく疲労が抜けず故障する選手が出てくるように思います。

(3)マラソン実戦主義

 多くの日本のエリート選手は、マラソンに出なさ過ぎだと思います。私のように年12回(12年かすみがうらマラソン〜13年長野マラソンまで)は多過ぎるかもしれませんが、海外選手では年3〜4回出場している選手も多くいます。

 マラソンは「経験のスポーツ」だと思うので、実戦でなければ学べない部分も多いと思います。年1〜2回のマラソンでは、はまれば“速く”走れるかもしれませんが、さまざまなレース展開に対応できるような“強さ”は、なかなか身に付かないのではないでしょうか。なぜなら、マラソン経験が積み重なった時には年齢的にピークを過ぎてしまい、経験を生かすための身体的能力を失ってしまうと考えているからです。つまり、「頭では分かっているのに身体が動かない」という一番悔しい状況になってしまうということです。だからこそ、若いうちからどんどんマラソンに挑戦して、マラソンに対する「恐怖心」や「未知」を少しでも取り除きながら、「自分なりのマラソンの走り方」を会得した方が良いように思います。

 以上のことから、私は「練習のための練習」ではなく「レースのためのレース」をすることが大事であるという意識で、多くのレースに出場しています。給水やタイム取り、声援などいろいろなサポートもしていただけますし、レースでの走りを通じて多くの方々に「何か」を感じてもらえる気がします。それに対して練習では、たとえレースと同じペースで同じ距離を走ったとしても、誰にも何も感じてもらえませんし、評価もしてもらえません。その上、質的にはレースよりも練習の方が確実に落ちます。
 さまざまなメリットがあるレースは、私の練習には欠かせないのです。

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